こうなると、体を動かしたり、感覚を感じたりすることが難しくなり、場合によっては完全に麻痺してしまうこともあるのです。
脊髄の損傷が厄介なのは、神経の線維や細胞がいったん傷つくと、なかなか元通りに繋がらないからです。
皮膚や骨はケガをしても時間が経てば治ることがありますが、神経細胞の場合は一度壊れると自力で回復するのは難しく、切れたケーブルのように再び繋がることが困難なのです。
現在、病院での脊髄損傷治療では、完全に切れてしまった神経を元通りにする方法はありません。
そのため、残った神経や筋肉をリハビリで訓練して、少しでも動きを改善しようという方法が主流になっています。
でも、重い損傷を負った人は自由に体を動かせない状態が一生続いてしまうことも少なくありません。
こうした状況を何とか改善しようと、多くの研究者が新しい治療法を探しています。
特に期待されているのが「再生医療」です。
再生医療とは、人間の体に本来備わっている「自分自身を修復する力」をうまく利用して、傷ついた部分を治そうという医療技術です。
これまで脊髄損傷では、主に二つの再生医療が試されてきました。
一つは「幹細胞」という特別な細胞を使って、神経を再生させる方法です。
幹細胞というのは、「まだどんな細胞になるか決まっていない、万能な細胞の種」のような存在です。
この細胞を傷ついた場所に入れると、新しい神経細胞が生えてくる可能性があるのです。
もう一つは、「人工チューブ」と呼ばれる細くて小さい管を使い、切れた神経線維が再び正しい方向に伸びていけるように誘導する方法です。
これは切れたケーブルの断面をうまく導くパイプのような役割をします。
しかし、これらの方法にも限界がありました。
こうした治療は、脊髄が傷ついてすぐの「急性期」には効果が見られることがありますが、長い時間が経ってしまった「慢性期」の患者さんや、完全に脊髄が切れてしまった状態では十分な効果が出なかったのです。