復活するのは“本物”か、それとも“似て非なるもの”か

 しかし、その道のりは平坦ではない。たとえ科学者たちがタスマニアタイガーの胚を研究室で育てることに成功したとしても、生まれてくるものが、かつてタスマニアの森を闊歩した捕食者の完全なレプリカになるわけではない。

「おそらく、タスマニアタイガーに似た動物は生まれるでしょう。しかし、彼らは本当のタスマニアタイガーではありません」と、ディーキン大学の生態学者ユアン・リッチー氏は指摘する。

 背中の縞模様といった外見は再現できるかもしれない。しかし、その行動様式はどうなるのか。「野生でどう振る舞うのか、私たちには全く分かりません。なぜなら、それを教えるべき生きたタスマニアタイガーは、もうどこにもいないのですから」

絶滅したタスマニアタイガー、100年前の“バケツの中の頭”から復活へ… 科学が“神の領域”に踏み込む日の画像3
(画像=イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI))

問われる“神の領域”と、人類の責任

 タスマニアタイガーの復活は、我々に現代における最も深遠な倫理的な問いを突きつける。多くの現存種が絶滅の危機に瀕している中で、なぜ一つの絶滅種を蘇らせるのか。それは、科学的資源の最も有効な使い方なのだろうか。そして、たとえ蘇らせることができたとしても、我々はそうすべきなのだろうか。

 しかし、このプロジェクトを推進する科学者たちは揺るがない。

「この動物を絶滅に追い込んだのは、我々人間です。もし科学がそれを可能にするのなら、我々にはその過ちを償う責任があるはずです」

 Colossal Biosciences社は、ニュージーランドの巨大な飛べない鳥「モア」の復活プロジェクトにも着手している。博物館の戸棚の奥のバケツから始まったこの物語は、今や「絶滅は、元に戻せる状態である」という、壮大なビジョンの一部となりつつある。

 数年後、我々は遺伝子科学が生み出した「タスマニアタイガーのような生き物」の誕生を、目の当たりにするかもしれない。その時、人類は“神の領域”に足を踏み入れたことを喜ぶべきか、それとも恐れるべきなのだろうか。

参考:ZME Science、ほか

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