絶滅したタスマニアタイガー、100年前の“バケツの中の頭”から復活へ… 科学が“神の領域”に踏み込む日の画像1
(画像=画像:Baker & E.J. Keller/Smithsonian Institution Archives(パブリック・ドメイン)/Wikimedia Commons)

 オーストラリアの博物館の片隅で、一つの“生物学的な宝物”が発見された。それは、100年以上もバケツの中でエタノールに漬けられ、誰にも気づかれずに戸棚の奥で眠っていた、一体のタスマニアタイガーの頭部だった。腐敗したその頭部の中から、科学者たちは絶滅したはずの動物を現代に蘇らせる、奇跡の鍵を発見したのだ。

失われた頂点捕食者と、100年前の“奇跡”

 タスマニアタイガー(学名:Thylacinus cynocephalus)、またの名をフクロオオカミ。かつてオーストラリア大陸の生態系の頂点に君臨した、有袋類の肉食動物である。しかし、人間による迫害の末、1936年に最後の1頭が動物園で死に絶え、その種は地球上から完全に姿を消した。

 しかし今、科学者たちは遺伝子工学の粋を集め、この失われた捕食者を現代に蘇らせるという、壮大な「脱絶滅」プロジェクトに挑んでいる。その先頭に立つのが、マンモスやドードーの復活も目指す、米国のバイオテック企業「Colossal Biosciences」だ。

 そして、この壮大な夢を大きく前進させたのが、あの“バケツの中の頭”だった。研究者たちは、その頭部からDNAだけでなく、RNA分子をも回収することに成功したのだ。

「これは奇跡でした。本当に驚きました」と、研究を率いるメルボルン大学のアンドリュー・パスカル教授は語る。

 RNAはDNAと異なり、動物の死後、極めて速やかに分解されてしまう非常に壊れやすい分子だ。しかし、100年以上も前の標本から、ほぼ完全な形でRNAが発見された。これにより、科学者たちはタスマニアタイガーの遺伝子が、体内でどのように機能していたかを解き明かすことが可能になった。彼らが手に入れたのは、単なる遺伝子の設計図ではなく、絶滅した動物がどのように世界を見て、嗅ぎ、感じていたかという、「生命の取扱説明書」だったのである。

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(画像=画像は「ZME Science」より)

代理母は“ネズミ”―復活へのロードマップ

 この奇跡の発見により、研究チームはこれまでで最も完全なタスマニアタイガーのゲノム(全遺伝情報)を構築することに成功した。残された未知の部分は、30億もの情報のうち、わずか45箇所だという。

 復活への具体的なロードマップも、すでに描かれている。

 まず、タスマニアタイガーに最も近縁な現存種である、ネズミのような小さな有袋類「フクロトビネズミ」の細胞を取り出す。次に、最先端の遺伝子編集技術を用いて、そのDNAをタスマニアタイガーのものと一致するように書き換える。そして、その改変された遺伝物質をフクロトビネズミの胚に移植し、フクロトビネズミのメスを「代理母」として出産させる、というのだ。