行政と事業者のコミュニケーションが重要
では、なぜ未届けの有料老人ホームは減らないのか。
「先ほどもお話ししたとおり、未届けの有料老人ホームは基本的には行政による指導の対象にならず、結構難しい位置づけなんです。さまざまな事業者や人の利害も関係してきます。不動産事業者は空室が多い状況になると困るので、空き物件を借りてくれるという法人があれば、非常にありがたく、未届けの有料老人ホームを運営する法人は商売がしやすいという土壌が、まずあります。一方、生活保護を受ける方は老人ホームに入りにくいという現状があるので、そうした方や身寄りのない方が、保証人がいなくても受け入れてくれる未届けの老人ホームに入るというかたちで、ニーズがマッチングしやすいことも背景にあると思います。
もしかしたら、『未届けのホームだから好きに生活できる』『自分の面倒を見てくれる人に出会った』という考え方をする方も、なかにはいらっしゃるかもしれません。ですが、たとえば何か信念や思いがあって未届けのホームを運営している事業者があったとしても、結局は未届けですから、設備の基準や人員の基準、事務能力も含めてしっかりしていない可能性が考えられます。そして、何かトラブルがあった時に誰かが助けてくれたり、間に入ってくれるということが期待しにくいです」
特別養護老人ホームの数が足りてないという問題も、未届けの有料老人ホームが減らない要因としてはあるのか。
「特養に入居するのは基本的には要介護3以上の方ですので、要介護1~2の方は入れないという問題はあると感じます。また、保証人になってくれる身寄りがいない方も入りにくいでしょう。成年後見制度を使うにしても、この制度の利用者は判断能力がない方に限定されており、要介護度が重くて認知症はない方が施設に入りたいという場合には、受けてくれるところが限定されてしまいます。こうした状況から、未届けの施設のお世話にならざるを得ない人が生まれる面もあるでしょう」
何か有効な対策はないのか。
「今後、日本では高齢者が増えると推計されており、特養などが増えればよいですが、設備やコスト面の課題、さらには介護職員が集まらないという状況があるので、未届けの老人ホームは今後も増えてくると予想されます。それを抑制するためには、届け出の基準を低くするということも、一つの選択肢として考えるべきかもしれません。例えば、天井にスプリンクラーがない未届けのホームがあったとして、火災が起きた時に危険であることは確かですが、今後さらに未届けの施設が増えていく可能性がるという問題を前にしたときに、悠長なことを言っている場合ではないという現実もあります。『すぐにスプリンクラーをつけて届け出をしてください』というよりも、行政と事業者が相談しながら運営がしやすいようなかたちに持っていくという考えも必要かもしれません。現実的に未届けの施設が受け皿となって救われている高齢者の方々が存在するわけですから、高齢者を支えていくためにも、行政と事業者がコミュニケーションを取れるような関係性を築いていくことが重要だと思います」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=大島康雄/星槎道都大学准教授)