●この記事のポイント ・トライアルHD、福岡県宮若市で研究・研修拠点「リモートワークタウンムスブ宮若」を運営 ・研究開発拠点、店舗内のデジタルサイネージに表示する販売促進コンテンツの制作拠点、研修・宿泊施設など複数の施設が集積 ・卸売企業、メーカーなど数十社が、競合関係という垣根を超えて販売促進や商品開発に関して議論
「福岡のシリコンバレー」と呼ばれる場所がある。3月にスーパー・西友を買収すると発表して注目され、全国的な知名度が一気に上昇したディスカウントストア・トライアルホールディングス(HD)が、福岡県宮若市に構える研究・研修拠点「リモートワークタウンムスブ宮若」だ。研究開発拠点、店舗内のデジタルサイネージに表示する販売促進コンテンツの制作拠点、研修・宿泊施設など複数の施設が集積。DX・AI研究・開発のほか、取引先である卸売企業、メーカーなど取引先をときには数十社、数百人単位で集め、数日間にわたり合宿形式で研修を行っている。講義のほか、トライアルは自社で蓄積した購買データなどを開示し、それをもとに競合関係という垣根を超えてメーカー同士が販売促進や商品開発に関する議論を重ねている。トライアルHDがこのような拠点を運営する目的は何か。また、具体的にどのようなことが行われているのか。同社に取材した。
●目次
“分散型社会”のハブとなる「リモートワークタウン」
九州を地盤として成長してきたトライアルHDは、大規模な「メガセンター」から小規模な「TRIAL GO」まで計約350店舗(西友の店舗は含まない)を全国に展開。2025年6月期の連結売上高は8038億円、営業利益は211億円と大手小売企業の一角を占める。店舗をはじめ事業全般で先進的なDX活用に取り組んでいるのが特徴。全国の店舗にはタブレット端末搭載型の「レジカート」を2万台以上導入し、AIカメラで顧客データを収集。会員IDから得られるデータを精緻に分析して販促や商品開発に活用している。
ムスブ宮若には「MUSUBU AI」「TRIAL IoT Lab」「MEDIA BASE」などが設置されているが、どのような目的・背景で立ち上げられたプロジェクトなのか。トライアルHDは次のように説明する。
「『ムスブ宮若プロジェクト』は、新しい生活様式や働き方の実現を目的に、“分散型社会”のハブとなる「リモートワークタウン」の構築を目指して2020年に始動しました。当初はAI開発拠点を首都圏に設ける計画でしたが、新型コロナウイルスの影響により社会の価値観や働き方に大きな変化が生まれたことをきっかけに、『本部機能を分散させる』というニューノーマルの考え方に基づき、地方拠点として宮若市でAI関連施設を構築することにしました。福岡市と北九州市の中間に位置する宮若市は、アクセスの良さと豊かな自然環境を兼ね備えており、当社にとって非常に利便性の高い立地です。また、宮若市とは以前から研修センターの用地取得などを通じて関係性が築かれていたことも、プロジェクト推進の背景にあります。
拠点となる3施設は、いずれも廃校となった校舎をリノベーションして整備されたもので、それぞれ以下のような役割を担っています。 ・MUSUBU AI 関連企業と連携しながらDX戦略やAI研究を進めるとともに、PDP(パーソナル・ダイナミック・プライシング)をはじめとするリテールテックの実証実験や、データを活用した1to1マーケティングの実現を通じたDX人材の育成とエコシステムの形成に取り組んでいます。 ・TRIAL IoT Lab スマートショッピングカートやリテールAIカメラ、デジタルサイネージなどの開発を担うIoT開発拠点であり、AIデバイス・IoT機器の高度化を図る研究施設として機能しています。 ・MEDIA BASE ショッパーマーケティングの実現に向け、店頭用デジタルサイネージやSNS向けのコンテンツ制作・情報発信を行うメディア拠点として活用されています」