今回のFTL1の研究は、こうしたエネルギー代謝と脳の老化の関係をさらに裏付ける結果であり、エネルギー不足を解消するアプローチが老化への新しい対策になることを示しています。
一方で、FTL1というタンパク質自体は、実は人間においてもまったく無関係ではありません。
FTL1遺伝子に変異があると、「神経フェリチン症」と呼ばれる遺伝性の神経疾患が起こり、中高年以降に運動機能や認知機能に障害が現れることが知られています。
また、アルツハイマー病患者の脳脊髄液を調べると、FTL1が含まれるフェリチンというタンパク質の量が多いほど、症状が早く進行するという報告もあります。
これらのことから、FTL1や脳内の鉄代謝の異常は、老化だけでなく認知症などの病気にも深く関わっている可能性があります。
つまり、今回マウスで得られた研究成果は、私たち人間の脳老化や病気の理解にも役立つ重要な手がかりになるかもしれないのです。
最後に、この研究成果が将来どのような影響を持つかを考えてみましょう。
現代社会は超高齢化が進み、記憶力の低下や認知症といった老化に関わる問題がますます深刻になっています。
研究チームを率いたビジェーダ博士は、「私たちは、加齢による最悪の影響を和らげる可能性をますます目にするようになりました。老化の生物学に取り組む今は希望に満ちた時代です」と語っています。
もちろん、FTL1をヒトでコントロールするためにはまだ多くの研究が必要です。
この研究はマウスを対象とした基礎研究であり、人間の脳でもまったく同じことが起きるかどうかは慎重に検証していく必要があります。
それでもこのような具体的な老化因子を特定したことは、将来の新しい治療法につながる大きな一歩と言えるでしょう。
老化した脳も、適切なスイッチを操作すれば再び若々しい働きを取り戻せる──この研究は、そうした未来を実現するための希望となるかもしれません。