理論上は玉ねぎ状の層構造があると考えられてきましたが、その「最深部」が本当に存在するのか、直接証拠はこれまで誰も見たことがなかったのです。
観測で確認されたのは、せいぜい外側のヘリウムや炭素、酸素の層まででした。
鉄の核を取り囲むシリコンや硫黄の層は、長年「存在は予言されているが、観測はできない領域」だったのです。
骨までむき出しの超新星「SN 2021yfj」
そんな状況を一変させたのが、2021年9月7日にカリフォルニア州のツヴィッキートランジェント天体探査装置(ZTF)が発見した「SN 2021yfj」でした。
地球からおよそ22億光年離れた銀河で光り輝いたこの超新星は、これまでの常識を覆す“異常な爆発”でした。
国際研究チームは、SN 2021yfjから届いた光を分解する「分光観測」を実施。
これは観測された光を波長ごとに分け、その中に含まれる元素の特徴を探る方法です。
すると驚くべきことに、通常の超新星で見られるヘリウムや酸素のサインが弱く、代わりにシリコンや硫黄の強い輝きが検出されました。
さらにはアルゴンといったより重い元素までもが観測されたのです。
これはつまり、爆発前の星が外層のほとんどを失い、中心部に近いシリコン・硫黄の層まで露出した状態で爆発したことを意味します。
研究者が例えるように、これはいわば「骨まで剥き出しになった星」が、宇宙に最後の光を放ったのです。
さらにチームは、京都大学が開発したオープンソースのシミュレーションコード「CHIPS」を使い、爆発の光の変化を計算。
その結果、観測された光の特徴が「外層を失った星が爆発した場合」とぴたりと一致したのです。
このことから、SN 2021yfjが従来の理論では説明できない、極端に“裸にされた星”の爆発であることが裏付けられました。
しかし、ここで新たな謎が浮かび上がります。
通常の恒星風では、せいぜい外側のヘリウム層までしか吹き飛ばせないはずです。