“分断”された知識を統合するチームの強み
大手製薬会社やCDMO(医薬品製造受託機関)との違いは何か――。沖田氏によると、それは“知識の統合力”だと言う。
「製薬会社の内部は縦割り構造になっていて、製造・創薬・デジタル、それぞれの部門が別々に動いているケースが多いんです。製造プロセス開発をデジタルシミュレーションで行うためには、実はそれらすべての知識が必要になる。私たちはその統合的な知見を、大学での研究から10年かけて蓄積してきました」
それゆえ、Auxilartには“スタートアップでありながら大手にない競争優位性がある”と自負する。
【市場戦略】製薬会社には“提供”、CDMOとは“協業”
では、同様の技術を大手企業が後追いで導入してくる可能性はないのか。この問いに対し、沖田氏は明快に答える。
「私たちは製薬会社とCDMOで戦略を分けて考えています。製薬会社には私たちの技術を直接“提供”していきます。一方で、CDMOとは一緒に製薬会社向けのプロジェクトを進める“協業”の形を取ります」
CDMOは製薬会社からの受託によって動く立場であるため、自ら積極的に新しい技術を導入するケースは少ない。Auxilartはこの構造を理解したうえで、柔軟に戦略を切り分けているという。
医薬品供給不足にも貢献できる技術
近年、医薬品の供給不足が社会的課題として注目されている。この問題にも、Auxilartの技術は一定の貢献ができるとの考えを示す。
「そもそも製造キャパシティが足りていないのが根本的な問題なんです。そこに対して、製造プロセスの開発が短縮されれば、新薬の生産開始までのタイムラインを大きく縮められます。これは中長期的に見て、非常にインパクトのある改善につながるはずです」
Auxilartの技術は、製薬業界に確かな革命を起こしている。
東大IPCから起業支援を受ける
Auxilartは2024年度、東京大学協創プラットフォーム株式会社(東大IPC)のアカデミア共催起業支援プログラム「1stRound」の第10回支援先に採択された。
東大IPCは2016年、東京大学の100%出資で設立された投資事業会社で、主に「投資」「起業支援」「DEEPTECH DIVE」の3つの事業を行っている。「1stRound」は国内最大規模のコンソーシアム型インキュベーションプログラムで、それに採択されれば、スタートアップ企業が投資家から初回の資金調達(1stRound)をスムーズに受けられるよう、東大IPCから活動資金、専門家によるサポート、オフィス、ラボ、クラウドサービスなど、各種のリソースが提供される。
東大IPC・1stRound Director 長坂英樹氏は、Auxilartの持つ技術の社会的意義や将来性について、次のように分析する。
「Auxilartは、わずかな実験データから製薬プロセスを数理的に再現・最適化する独自技術により、膨大な時間とコストを要する新薬開発の在り方を根本から変えようとしています。従来のAIを超える高い汎用性と外挿性を備えたモデルは、製薬業界にとどまらず、化学・再生医療など幅広い分野への応用可能性を秘めています。すでに海外大手製薬企業との連携が進む中、今後はSaaS化を通じてスケール性も確保し、プロセス開発のインフラとしての地位を確立することが期待されます。人々の健康に直結する産業において、創薬のスピードと質を飛躍的に高めるAuxilartの挑戦は、医療の未来そのものを変える可能性を持っています」
(取材=UNICORN JOURNAL編集部)
企業情報 社名:株式会社Auxilart 設立:2023年 所在地:東京都文京区本郷 代表者:代表取締役 CEO キム・ジュンウ 事業内容:製薬プロセス開発におけるデジタルシミュレーションツールの提供 URL:https://auxilart.com