●この記事のポイント ・Auxilartは、物理モデルに基づくデジタルシミュレーションで医薬品の製造プロセス開発を効率化し、コスト・時間・人手の大幅削減を可能にしている。 ・製薬・創薬・デジタルの知識を統合した強みを持ち、製薬会社には技術提供、CDMOとは協業という柔軟な市場戦略を展開している。 ・この技術は医薬品供給不足の解消にも寄与し、創薬業界に大きな変革をもたらし得る。
東京大学発のベンチャーとして誕生したAuxilart(オキシルアート)株式会社は、医薬品製造のプロセス開発を効率化するデジタルシミュレーション技術を武器に、創薬業界の課題に真正面から挑んでいる。コスト・時間・人手の負担が重くのしかかる製薬の現場に、彼らはどのような変革をもたらそうとしているのか。Chief Operating Officerの沖田慧祐氏に話を聞いた。
●目次
創薬の“最後の壁”を効率化
Auxilartが手がけるのは、医薬品の製造プロセス開発の効率化だ。
「私たちの強みは、物理モデルに基づいたデジタルシミュレーション技術を用いて、コストと時間を大幅に削減できるところにあります。もともとの技術は、東京大学 杉山・Badr研究室で開発されたもので、そこから事業化しました」(沖田氏、以下同)

製薬業界では、医薬品を上市するまでに多大なコストと時間がかかっていることはよく知られている。その中であまり知られていないのが、医薬品の製造プロセス開発の工程だ。製造プロセス開発とは、医薬品を安全かつ安定・大量につくる製造方法を設計・最適化する工程である。この製造プロセス開発では、これまで、物理的な実験を何千回と繰り返しながら製造プロセスを最適化しなければならない。1つの医薬品に3000回もの実験、100億円規模のコスト、6年近くの歳月がかかることも珍しくない。
「それに比べ、私たちは製造プロセスにおける重要なパラメーター(温度、撹拌速度、濃度など)をシミュレーション上で検証・最適化できます。ほんのわずかな調整でも、数千リットル規模の生産では大きな影響が出ますから、これは極めて重要です」