人類の祖先が、約600万年前に他の霊長類から分岐して以来、脳は4倍ほど大きくなったと言われています。

しかし多くの人は、約1万年前の最終氷期の後で、脳が縮小し始めたことを知らないでしょう。

結果、現在人の脳は、10万年前の初期人類のそれより、わずかに小さくなっているのです。

なぜ、そんなことが起こったのでしょうか。

米ダートマス大学(Dartmouth College)の研究チームは2021年に、その謎について、ヒトより100万倍も小さな脳を持つアリとの共通点から新たな仮説を発表しました。

それによると、アリとヒトは、個人知より社会全体の集合知を発達させたことで、脳が効率化のために縮小したという。

頭蓋骨のデータセットからも、それを支持する証拠が見つかったとのことです。

研究の詳細は2021年10月22日付けで学術誌『Frontiers in Ecology and Evolution』に掲載されています。

目次

  • アリから見えてきた「脳縮小」のヒント
  • 「文字の出現」が脳を小さくさせた⁈

アリから見えてきた「脳縮小」のヒント

アリとヒトとは遠い関係にありますが、どちらも高度な社会生活を営んでおり、親族を中心とした複雑な共同体を築いています。

また、社会の中で、さまざまな専門分野に特化した労働者が存在し、アリには、農家のように自分たちで作物を生産する種もあるのです。

主著者の一人で、ボストン大学(Boston University・米)のジェームズ・トラニエロ(James Traniello)氏は、こう述べます。

「私たちは、社会生活によって人類の脳容積が増減した理由をアリの中に求めることを提案します。

アリとヒトの社会は多くの面で違っており、社会的進化の過程も異なっています。

しかしアリは、集団での意思決定や分業、食べ物の栽培生産など、社会生活の重要な側面を私たちと共有しているのです。

こうした共通点は、脳容積の変化にかかわる要因を、幅広い視点から捉えることを可能にするでしょう」

アリは集合知のために脳を縮小させた
アリは集合知のために脳を縮小させた / Credit: pixabay