その好ましさは、ラットが発する50kHzの超音波(嬉しい時の鳴き声)によっても確認されました。

また、ラットが自ら「くすぐられた部屋」を選ぶことが多くなるという傾向もはっきりと現れました。

では、こうした行動の変化は、脳内でどのようなメカニズムによって引き起こされているのでしょうか。

ラットがヒトの手に懐く神経回路メカニズムが解明される

研究チームが、ハンドリングによって人の手に懐くようになったラットたちの脳を調べたところ、特に活性化していたのが「視床下部腹内側核腹外側部(VMHvl)」という領域でした。

ここは本能的な行動(たとえば性行動や攻撃性)を制御することで知られている部位です。

特に注目されたのは、このVMHvlにある「オキシトシン受容体(OTR)」の発現量が、ハンドリングを受けたラットで顕著に増加していたことです。

つまり、繰り返しの触覚刺激によって、VMHvlにおけるオキシトシン受容体が活性化し、ラットに“愛着行動”を促す神経的な土台を形成していたのです。

さらに、DREADDs(薬理遺伝学)技術を用いて、このVMHvl内のオキシトシン受容体ニューロンを一時的に抑制すると、ラットの人の手に対する愛着行動は減少しました。

また、解剖学的解析では、オキシトシンを生成する視索上核(SON)から、VMHvlへの神経連絡が確認され、この神経回路がラットと人の手の間の愛着形成の調節に関与している可能性が示されました。

この発見は、単にラットの行動を説明するだけではありません。

オキシトシンという愛情ホルモンが、触覚刺激と組み合わさることで、種を超えて“絆”を生むという普遍的なメカニズムが明らかになったのです。

このことは、アニマルセラピー(動物介在療法)の科学的基盤にもなり得ます。

今後は、他の動物種や人間への応用研究、オキシトシン経路を活性化させる具体的な手法の開発などが期待されます。