興味深いことに、チームは「無意識に生じる心の声」までも検出できることを示しました。
例えば、画面に表示された矢印の並びを覚える課題では、多くの参加者が「上、右、上」といった具合に心の中で言葉を繰り返していたと考えられ、その信号をBCIが捉えることができたのです。
また「数を数える課題」では、頭の中で進行している数字のカウントが実際に脳信号から読み取られました。
つまりこの技術は、単に「指示された心の声」を読むだけでなく、自然に生じる内的言葉まで拾い上げてしまう可能性があることを示したのです。
諸刃の剣?コミュニケーションの未来とプライバシーの課題
この成果は、言葉を発することが困難な人々にとって大きな希望です。
従来のBCIは「声に出して話そうとする動作」を前提にしていましたが、それには口や喉の筋肉を動かそうとする意図が必要で、利用者には大きな負担がかかりました。
内的言葉を直接読み取れるようになれば、呼吸や筋肉の制御が難しい人でも、より自然に、そして疲労感を少なくコミュニケーションできる可能性があります。
実際に参加者たちも、声を出そうとするより「心の中で言う」方が楽で自然だと報告しています。
将来的には、通常の会話に近い速度でのコミュニケーション回復につながると期待されています。
一方で、この技術は新たな倫理的問題を提起します。
もしBCIが無意識の内的言葉まで読み取れるとしたら、「本当は言うつもりのなかった心の声」が外に漏れてしまう危険があるのです。
これは「精神的プライバシー」を侵害するリスクとして、多くの専門家が懸念しています。
チームはこの問題に対処するため、いくつかの安全策を考案しました。
ひとつは「イメージ抑制型学習」と呼ばれる方法で、内的言葉を「沈黙」として学習させ、BCIが勝手に心の声を解読しないようにするものです。
もうひとつは「キーワード方式」で、ユーザーが特定の合言葉(実験では「chitty chitty bang bang」)を心の中で唱えたときだけBCIが解読を開始する仕組みです。