「ポスト・ベトナム」としてのインドネシア注目

 外国人労働者の供給源は、送り出し国の経済発展に伴って変遷している。2000年代は中国が中心だったが、中国の経済成長により日本への出稼ぎ労働者は減少。2010年代に入るとベトナムが主要な送り出し国となったが、最近はその状況にも変化が見られる。

「ベトナム人で日本に働きに来たいという人も減り始めています。ベトナムに進出している外資系の工場などで働けば日本円で10万円程度稼げるようになったため、わざわざ日本に来て働くメリットが減りました。

 こうした状況から、インドネシア、ネパール、ミャンマーといった国々が“ポスト・ベトナム”として注目されています。これらの国々はベトナムよりもさらに賃金水準が低く、他に出稼ぎに行く選択肢も限られています。

 世界的に人材獲得競争が起きていると言われますが、スキルを必要としない『単純労働』に就く人材に関していえば競争など起きてはいません。日本は受け入れのハードルが非常に低く、送り出し業者に支払う手数料のための借金さえ厭わなければ誰でも入国できてしまう。ただし、わざわざ借金までして日本に行くのは母国で仕事の見つからない人たちです。当然、人材の質は保証できない」

制度改革の限界

 現行の技能実習制度は2027年から「育成就労制度」に名称変更される予定だが、出井氏は実質的な変化は少ないと見る。

「技能実習に対するさまざまな批判を受けて政府が制度を変更しようとしていますが、名前が変わる程度で、大して中身は変わりません。そして特定技能制度は、技能実習生を日本に引き止めるための資格です。もともと技能実習は最長5年で帰国する制度でしたが、海外の賃金が上がる中で外国人労働者を確保できなくなることを懸念し、日本で定住・永住し、無期限に働けるようになりました。特定技能『2号』を取得すれば母国から配偶者や子どもも呼び寄せられるため、事実上の移民政策となっています。

 しかし、この政策変更について十分な国民的議論が行われていないのが現状です。移民が増えることのメリット・デメリットについて、デメリットの部分が十分に検証されていません。そのため漠然とした不安が国民の中に広がっています」

今後の課題と社会的リスク

 出井氏は、今回の参議院選挙の結果を踏まえ、外国人労働者問題に対する社会的関心の高まりに注目している。

「“外国人問題”が選挙の争点になるなど以前では考えられなかった。今後も世の中の関心が高まっていくと思います。今回の選挙結果を見ても、国民の不安が強まっているのは明らかです。欧米諸国でも外国人労働者・移民の問題は国を二分する問題になっています。そこを解決しないと、日本でも大きな社会問題となりかねません」

 出井氏は、経済界の安価な労働力へのニーズだけでなく、日本社会全体にとっての影響を総合的に検討する必要性を強調する。

「一度立ち止まって、デメリットのところをよく考える必要があります。本当にこのまま外国人労働者をどんどん増やしていくことが、日本に暮らす我々にとって良いことなのかを検討すべきです。今、少なくとも先進国でこれほど簡単に外国人労働者・移民を受け入れている国はありません。逆に欧米では制限しようという動きになっている中で、日本だけが2周、3周遅れでどんどん入れていこうとしていますが、今一度立ち止まって考えるべきではないでしょうか」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=出井康博/ジャーナリスト)