アラスカの首脳会談でトランプ氏は欧米側の立場をプーチン氏に伝達したのだろうか。停戦に応じない場合、厳しい対ロ制裁を科すと警告したのだろうか、と懸念される。プーチン氏の要求だけを聞き、それをウクライナと欧州主要国に報告するだけに終わったとすれば、ディ―ルの王を豪語するトランプ氏はプーチン氏の前ではメッセンジャー・ボーイに過ぎなくなる。それとも、トランプ氏が対ロ制裁の話をしたが、プーチン氏の要求には変化がなかったのだろうか。
ロシア側の要求もウクライナ側の主張にもアラスカ首脳会談後も何も変化がないとすれば、トランプ氏がゼレンスキー大統領や欧州の有志連合代表(英独仏など)と会談したとしても、歩み寄りは現時点では期待できなない。
トランプ氏はゼレンスキー氏に「和平を選ぶが、戦争の継続か」で選択を強いるだろう。ゼレンスキーを説得できなければ、トランプ氏はウクライナ問題から足を引くかもしれない。
当方はゼレンスキー氏の立場に同情する。平和(ピース)を早く取り戻したい一方、民族、国家としての公平(ジャスティス)を死守したいという2つの選択の前に苦渋しているように感じるからだ。
ピースはジャスティスとは違い、武器を捨て、戦場での戦いを止めれば実現できる。その場合、どちらが勝利したとか、敗北したということは、民族・国家の指導者にとって重要だが、大多数の国民は平和が戻ってきたことを歓迎するだろう。戦場で息子や夫を失う心配もないからだ。一方、ジャスティスや大義を掲げる政治家や指導者にとって、戦いは勝利しなければならないと確信している。しかし、ジャスティスを主張し続ける限り、多くの場合、ジャスティスの本来の目標である平和が遠ざかっていくのだ。
イスラエルの著名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は2023年10月27日の英国の著名なジャーナリスト、ピアス・モルゲン氏のショー(Uncensored)の中で、「歴史問題で最悪の対応は過去の出来事を修正したり、救済しようとすることだ。歴史的出来事は過去に起きたことで、それを修正したり、その時代の人々を救済することはできない。私たちは未来に目を向ける必要がある」と強調。「歴史で傷ついた者がそれゆえに他者を傷つけることは正当化できない。『平和』と『公平』のどちらかを選ばなければならないとすれば、『平和』を選ぶべきだ。世界の歴史で『平和協定』といわれるものは紛争当事者の妥協を土台として成立されたものが多い。『平和』ではなく、『公平』を選び、完全な公平を主張し出したならば、戦いは続く」と説明していた。