2022年に京都市の高齢者施設で86歳の女性がにぎりずしを喉に詰まらせて亡くなった件で、名古屋地裁は施設側に「慎重さを欠いた」として約2900万円の賠償を命じました。

参照:高齢者施設「クリスマス祝い」すしで86歳窒息死 「慎重さを欠いた」裁判で明らかになった問題点とは

判決は法の名のもとに「安全第一」を徹底するよう迫ったわけですが、その結果として現場に広がる光景はどうなるのでしょうか。

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これから介護施設では、誤嚥のリスクを少しでも避けるために寿司は提供されず、餅も禁止、果ては固形物そのものが敬遠されるかもしれません。結果、裁判所の善意が介護施設を「命の安全は守られるが、生活の質は地獄」という場所に変えてしまうのです。

本来なら「どう生きるか」「どう楽しむか」を支えるのが介護の役割ですが、この判決の論理を突き詰めれば「どう死なせないか」だけが優先されます。もちろん命は大切ですが、人間は必ず死ぬ存在であり、その過程をどう過ごすかこそが本質のはずです。にもかかわらず、司法の目には「寿司を食べたい」という願いよりも「事故が起きた責任」を糾弾することの方が重要に映るのでしょう。