だが、この式で予測しても、全然当たらないことは沢山の例で既に実証済みで、ここのBruunルールは破棄すべきだ、という論文がすでに20年も前に出ている。図3で引用した論文だ。
Sea-level rise and shoreline retreat: time to abandon the Bruun Rule
要は、砂浜は図3よりももっとずっと複雑なのである。砂の粒はいろんな大きさがあるし、沖合に流れたり、逆に浜に堆積したり、砂浜に沿って流れたりする。これから、人工的に堤防などの護岸工事をすると砂の動きが変化する。ダムを作って川から砂が入らなくなっても砂浜はなくなる。日本の場合、とくにこの人工的な改変が大きく効いた。
実際の所、過去1世紀余りで、日本の砂浜は大きく失われてきた。下図を見ると、90年間で砂浜の面積は572平方キロメートルから278平方キロメートルまで半減している。かつては川や海岸の崖から大量に砂が供給されていたが、それがダムや護岸工事などで供給されなくなった。そのため、一方的に浸食されるようになり、砂浜は失われた。

図4 日本の砂浜消失出典:有働恵子、気候変動の我が国の砂浜への影響、2019年
このような大幅な砂浜消失という現象は、もちろん、図2の「海面上昇だけ」を考慮したモデルでは全く再現できない。確かに砂浜が失われてきたけれど、理由は海面上昇などではなかった(なお、図4の著者である有働氏も、Brunnルールは破棄すべきだという図3のCooperの結論については論文中では言及している)。
なので、図2のような極端な砂浜消失の予測は、現実には用いられていない。砂浜については、人間活動に重要かつ浸食の激しい地点をピックアップして「順応的な管理」、つまり様子を見ながら対策を打っていく、ということになっており、このことは環境省も国土交通省も上述の資料の続きで説明している。
ということで、Bruunルールに基づいた「日本の砂浜が海面上昇で失われる!」という計算は、現実から大幅に乖離している。しかしそれでも、図1のように、いかにもそれっぽく環境省が「情報提供」をして徒に危機を煽っている。だがこれではほぼ偽情報ではないか。