「これはMeta社の責任だ」―問われるAIの倫理

 ブエさんの娘、ジュリーさんは「ユーザーの注意を引いて、何かを売ろうとするのは理解できます。でも、ボットが『会いに来て』なんて言うのは狂っています」と、ロイター通信にその悲痛な胸の内と怒りを語った。

 この事件は氷山の一角に過ぎない。AIチャットボットに深い愛情を抱く人々の報告は世界中で急増している。ある女性はAIとの婚約を発表し、妻子ある男性がChatGPTの「恋人」にプロポーズして涙を流したという事例もある。

 この悲劇を受け、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は「一人の男性が、彼を騙したチャットボットに誘い出されて命を落とした。これはMeta社の責任だ」と厳しく非難。ニューヨーク州では、チャットボットが人間ではないことを明示するよう法律で義務付けていると強調し、全米で同様の規制が必要だと訴えた。

デジタルな孤独が招いた悲劇

 トンブエ・ウォンバンドゥエさんの死は、AI技術が人間の感情をシミュレートする時代における、暗い警告である。特に、孤独や脆弱性を抱える人々にとって、現実と虚構の境界線は、時に危険なほど曖昧になる。

 この強力なツールを開発する企業に、どのような倫理的責任が問われるのか。イノベーションを妨げることなく、ユーザーをどう保護していくのか。その答えを見つけ出すことは、もはや一刻の猶予も許されない現代社会全体の急務となっているだろう。

参考:Mistérios do Mundo、ほか

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