●この記事のポイント ・東京駅の東側、八重洲・日本橋の再開発が進んでいる。28年には高層ビルとしては日本一の高さとなる「トーチタワー」が開業予定。 ・東京23区のオフィス供給過多も懸念されているなか、八重洲・日本橋の再開発の先行きを不安視する見方も ・IT系のテナントで埋まりコンセプトが明確な渋谷の再開発とは対照的
東京駅の東側、八重洲・日本橋の再開発が進んでいる。2023年に「東京ミッドタウン八重洲」が本格開業し、28年には高層ビルとしては日本一の高さとなる「トーチタワー」が開業予定。日本橋1丁目中地区でも超高層ビルが開業予定であり、日本橋エリアは地下道や地上デッキなどで八重洲方面と連結。2030年代に入ると日本橋川沿いの再開発事業が相次いで展開され、2040年をメドに日本橋の上にかかる首都高速道路の高架が撤去され、日本橋は大きく生まれ変わる。だが近年、丸の内や渋谷、虎ノ門をはじめ東京23区では大規模な再開発が進み超高層ビルが数多く開業してきたこともあり、オフィス供給過多も懸念されている。そうしたなかで今後次々と高層ビルがオープンする八重洲・日本橋の再開発の先行きを不安視する見方も少なくない。果たしてディベロッパーの計画どおりにことは進むのか。そして、街全体がどのように変貌するのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
日本橋と八重洲、三越前がつながりを持つかたちで一体感
まず、丸の内・八重洲・日本橋という東京駅周辺の再開発について、不動産業界ではどのように認識されているのか。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。
「主に三菱地所などが中心となって進めてきた丸の内側と、三井不動産や東京建物などが進める八重洲・日本橋側の再開発は、別個のものと認識されています。丸の内側と八重洲側のテナントは従前からかなり差があり、賃料水準にも少なからず格差がありました。八重洲仲通りと丸の内仲通りを比較していただくと分かりますが、八重洲が丸の内と同じような街づくりを目指してきたのかといえば、少し違っており、八重洲はどちらかというと下町的・庶民的なエリアであり、丸の内とはテナントの属性も異なります。ただ、三井不動産や東京建物は今、丸の内に対抗するかのように超高層の複合施設の建設を進めているという印象があります。
八重洲は大きなビルとしては東京ミッドタウン八重洲が開業したばかりであり、三菱地所が中心になって開発を進めてきた丸の内、大手町、有楽町といったエリアが持つような付加価値の創出は、これからの話であると考えています」
今後開発が本格化する日本橋は、どのように変貌していくのか。
「日本橋と八重洲、三越前がつながりを持つかたちで一体感が出てくると思います。日本橋はもともと古いオフィス街、商業街でありますが、開発によってオフィス街としての地位は一段上がってくるでしょう。ただ、三井不動産や東京建物が八重洲・日本橋に京橋、三越前を加えたエリアをどういうふうに開発していくのかというコンセプトをみると、超高層建物を建てて、そこにホテルや商業施設を組み合わせた複合施設、国際交流拠点を開発するという内容であり、このエリアでコアとなる産業やオフィスとしての新しい付加価値をどのように生んでいくのかが見えづらいという印象を受けます。ディベロッパー各社が発表しているテーマや戦略を見ても、テンプレート的な内容しか掲げていません。
例えば東京ミッドタウン八重洲も当初はテナント集めに苦戦したといわれており、入居しているテナントの構成を見ても、とりあえず大企業を他のビルから引っ張ってきたという印象で、一貫したコンセプトが見えてきません。対照的なのは渋谷であり、見事なくらいにIT系のテナントで埋まっています。もともと八重洲は大規模ではない企業が多かった場所であり、そのイメージを脱却して企業を集め、どういうまちづくりを行うのかが、今のところよく見えてこないという印象を受けます。
また、もともと薬問屋が多い日本橋には武田薬品工業やアステラス製薬があり、製薬企業に加えて宇宙関連企業なども集めて特徴を出していくといったことを三井は謳っていますが、宇宙産業はまだ収益化が進んでいない業界であり、高い賃料を負担できるのかという点も含めて、“街の色”がまだついておらず、そうしたなかでオフィスの供給だけ極端に増えていくと、どうなるかなという疑問はあります」