前半はヒト胚の細胞の凝集過程を示し、後半は同じ胚が子宮内膜に侵入(着床)する様子を示している。

驚くべきことに、撮影された受精卵は「ただ静かに寄り添う」のではなく、子宮組織に力を加えて“ぐいぐい”と潜り込んでいく様子を示しました。

これは着床が「受け身の現象」ではなく、胚自身が積極的に環境を切り開きながら母体へと一体化していく“ダイナミックな力のドラマ”であることを示しています。

ヒト胚とマウス胚で着床メカニズムが違っていた

今回の実験はヒト胚だけでなく、マウス胚との比較も行われました。

両者は同じ哺乳類ですが、その着床の仕組みは驚くほど異なっていたのです。

マウスの受精卵は子宮の表面に浅く入り込み、周囲の組織に包み込まれる形で着床します。

映像解析では、コラーゲン繊維を2〜3方向に引っ張る「軸のある力の使い方」をしていることがわかりました。

言い換えれば、マウスの着床は“部分的に力を集中させて押し込む”スタイルなのです。

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左:マウス胚の着床、右:ヒト胚の着床/ Credit: Amélie Luise Godeau et al., Science Advances(2025)

一方でヒトの受精卵は全く異なる戦略をとります。

胚は球状のまま深く潜り込み、周囲の組織を放射状に引き寄せながら完全に埋め込まれます。

さらに、ヒト胚は周囲に強い牽引力をかけて組織をリモデリング(再構築)することが確認されました。

つまり、ヒトの着床は“360度全方向から力をかけて自ら環境を作り変える”スタイルだといえるのです。

また研究では、着床に成功する胚と失敗する胚との違いも観察されました。

質の低い胚は周囲への力の働きかけが弱く、組織への侵入も不十分であることが示されたのです。

これは将来的に、不妊治療における「着床しやすい胚の選別」に役立つ可能性を持っています。

さらに重要なのは、受精卵が“力を感じ取る能力”を持っている点です。