例えば、トイレの場所が分からなくなる患者には、トイレまでの動線に矢印を貼る、夜間はトイレまでの廊下に足元灯を設置するといった工夫が有効です。また、昼夜逆転を防ぐために、日中は自然光を十分に取り入れ、夕方以降は照明を徐々に暗くしていくことで、自然な睡眠リズムを促すことができます。

家族が今日から始められること

非薬物療法は、特別な設備や専門知識がなくても始められます。例えば、一緒に昔のアルバムを見ながら思い出話をする、好きだった料理を一緒に作る、散歩しながら季節の花を楽しむ。これらすべてが立派な非薬物療法です。

大切なのは、患者を「認知症」というレッテルで見るのではなく、その人の人生史、価値観、好みを尊重することです。薬だけに頼らない、その人らしさを大切にしたケアこそが、認知症と共に生きる新しい可能性を開くのです。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

22冊目の本を出版しました。

「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)