なんとブーメラン星雲の温度は、1K(ケルビン、マイナス272℃)に達することが判明したのです。
その凄さは、「絶対零度」にわずか1℃まで迫る温度といえば分かりやすいかもしれません。
絶対零度とは、物質が達することのできる最低温度の限界値であり、0K(マイナス273.15℃)を指します。
温度とは物質の運動エネルギーのことであり、すべての物質が動くエネルギーがゼロになった状態が0Kです。
つまり絶対零度はすべてが静止した世界です。
そのため1Kという温度は、すべてが静止した状態に限りなく近い冷たい場所なのです。

さらにこのときの観測で、ブーメラン星雲は「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」の電波を吸収していることが分かりました。
CMBとは、宇宙誕生の起源である”ビッグバンの残光”です。ビッグバンの輝きは宇宙の膨張とともに引き伸ばされ、現在は電波波長となって宇宙空間のあらゆる場所にこだまとなって満ちています。
そのCMBの温度は2.7K(マイナス270.4℃)と判明しており、ブーメラン星雲がこの電波を吸収できるということは、CMBよりも温度が低いことを意味しています。
よって、ブーメラン星雲は「宇宙空間においてCMBよりも冷たい唯一の場所」と言われています。
では、ブーメラン星雲はなぜこれほど冷たい天体になっているのでしょうか?
猛烈なスピードで放出されるガス流が原因?
2013年のチリ・アルマ望遠鏡(ALMA)を用いた観測で、ブーメラン星雲の中心部の仕組みがより明瞭になりました。
そこで明らかになったのは、ガスが猛烈なスピードで両極方向に放出されていたことです。
星雲の中心からは秒速150〜164キロメートルのガスジェットが噴出し、両極に向かって約3兆キロ以上も伸びています。
秒速150キロの速度でガスが広がったとしても、この長さに達するには3500年かかる計算です。