現代のクジラといえば、口にヒゲ板を備え、プランクトンを大量に濾し取る穏やかな海の巨人を思い浮かべる人が多いでしょう。
(もちろん、鋭い歯でイカなどを食べるハクジラ類もいますが)
しかし約2500万年前のオーストラリア近海には、穏やかなクジラのイメージを根底から覆す“捕食者”が存在していたようです。
その名は「ヤンジュケトゥス・ダラルディ(Janjucetus dullardi)」。
豪モナシュ大学(Monash University)により発見されたこの新種クジラは、鋭いサメのような歯をもち、イルカほどの大きさで獲物を追い回していたと考えられます。
研究の詳細は2025年8月12日付で科学雑誌『Zoological Journal of the Linnean Society』に掲載されています。
目次
- サメの歯を持つクジラ?
- クジラ進化史の空白を埋める発見
サメの歯を持つクジラ?
今回の化石は、2019年6月にオーストラリア南東部・ビクトリア州サーフコーストの浜辺で発見されました。
第一発見者となったのは、地元の学校校長ロス・ダラード(Ross Dullard)氏です。
その後、寄贈を受けたビクトリア博物館の研究チームが詳細に解析した結果、この化石は、現生ヒゲクジラ類の初期系統に属する「マムマロドン科」の未成熟個体であり、既知のどの種とも異なる特徴を備えていることがわかりました。
発見されたのは、部分的な頭骨と耳の骨、中耳の小骨、そして7本の歯です。
推定全長は約2〜2.2メートルで、成長しても3メートル程度と見られています。
現生のヒゲクジラとは異なり、口には肉を切り裂くための二本根の歯が並び、歯の表面には縦方向の稜が走っていました。
これらの歯は、魚や小型の海生哺乳類などを捕らえるのに適した構造です。
