そして、GDS-15で5点以上を「うつあり」、5点未満を「うつなし」と分類し、3年後のうつ発症を評価しました。

公共交通へのアクセスに関しては、まず駅やバス停が家から徒歩10〜15分以内にあるかどうかという主観的な感覚で評価しました。
さらに、GIS(地理情報システム)を用いて、自宅から最寄りの駅やバス停までの実際の距離を計測するという客観的な指標でも評価しました。
そのほか、性別、年齢、等価所得、教育歴、就労状況、婚姻状況、治療中の疾患の有無、同居人の有無、IADL(日常生活自立度)、人口密度といったさまざまな要因も補正因子として統計的に考慮されました。
近くに公共交通機関がない高齢者は3年後のうつ率が1.6倍に
研究の結果、4,947人のうち483人、すなわち全体の約9.8%が3年後にうつを発症していました。
また、車を利用していない932人のうち、駅やバス停が近くに「ある」と答えた人が621人、「ない」と答えた人が194人でした。
そして、「ない」と答えた人は、「ある」と答えた人に比べて、3年後にうつを発症するリスクが1.6倍高いことが明らかになりました。

この結果は統計学的にも有意であり、偶然の誤差とは考えにくい信頼性の高いものでした。
一方で、車を利用しているグループでは、駅やバス停へのアクセスとうつの関係は見られませんでした。
この研究から高齢者のうつは、公共交通機関の利便性と大きく関係していると分かります。
特に車を使えない高齢者ほど、近くに駅やバス停があることは、心の健康を保つ上で重要です。
そのため今後の交通政策では、鉄道やバス路線の廃止が高齢者たちの心にどんな影響を及ぼすのかも考慮する必要があります。
また、親や自分が「老後どこで過ごすか」を決定する際には、公共交通機関の利便性をよく考える必要があるでしょう。