これは単なる偶然や一時的な流行ではなく、長い時間をかけて積み重なった変化だったのです。
世代を超えて受け継がれる「断絶」の連鎖
さらに研究が明らかにしたのは、つながりの減少を加速させるもう一つの要因です。
それは「世代間伝達」と呼ばれる仕組みです。
簡単にいえば、親の自然とのつながりが弱ければ、その子どもも自然に親しみにくくなるということです。
現代の都市生活では、自然に触れる機会が少なくなっています。
その結果、自然と深く関わる体験を持たないまま大人になる人が増え、やがて親になったときに子どもへ伝えられる「自然の価値」も薄れてしまいます。
このようにして、断絶は世代から世代へと連鎖していくのです。
研究モデルによると、この世代間伝達の影響は非常に大きく、自然とのつながりの長期的な低下を説明する主要因となっていました。
一方で、人生の中で直接自然に触れる「体験の絶滅(extinction of experience)」の影響は、全体に比べれば補助的な役割にとどまっていたといいます。

つまり、自然の価値観は一度失われると、短期間で取り戻すのは難しく、回復には世代単位の時間が必要になるのです。
将来予測では、都市の緑地を大幅に増やすだけでは不十分で、子ども時代からの継続的な自然体験と親世代の関与が組み合わさって初めて、2050年以降に持続的な回復が見込めるとされました。
この研究が示す61%という数字は、単なる統計ではなく、私たちの暮らし方が変えてきた心の風景を表しています。
自然とのつながりは、環境を守る行動や心の健康にも深く関係しており、それを失うことは私たち自身の未来を失うことにもつながります。
もし次の世代に豊かな自然体験を残したいなら、街に緑を増やすだけでなく、家族や地域で自然と向き合う時間を増やすことが欠かせません。
200年かけて薄れてしまった「自然とのつながり」を、これからの200年で取り戻すことができるかどうかは、私たち一人ひとりの選択にかかっているのです。