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医療の現場で本来あってはならない「差別」が、実は日常的に起きているかもしれない。それは患者の見た目による医師の態度の変化だ。医師は「すべての患者を平等に診る」という職業倫理を掲げているが、実際の診察室では異なる光景が繰り広げられている可能性がある。

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ある総合病院での出来事だ。待合室で順番を待つBさんは、前の患者の診察の様子が聞こえてきた。その患者は作業着姿で、泥がついたままの服装だった。

医師の声は明らかに事務的で、「はい、はい」と相槌を打つだけ。診察時間もわずか3分程度で終了した。次にBさんの番が来た。Bさんはスーツ姿で、きちんとした身なりをしていた。すると医師の態度は一変し、丁寧に症状を聞き、生活習慣についても詳しく質問してきた。診察時間は15分以上に及んだ。

このような差は偶然ではない。医療社会学の研究によると、医師の無意識のバイアスが診察に影響を与えることが明らかになっている。特に初診の患者に対しては、第一印象が診察の質を大きく左右する。

清潔感のある服装の患者には「きちんと服薬指導を守ってくれそう」「生活習慣の改善にも協力的だろう」という先入観を持ちやすい。一方、身なりが整っていない患者に対しては「どうせ指示を守らないだろう」という偏見を抱きがちだ。

さらに興味深いのは、患者の職業や社会的地位も診察に影響を与えることだ。ある内科医は匿名を条件にこう語った。「正直に言うと、患者さんの保険証の種類や勤務先を見て、無意識に対応を変えてしまうことがある。

大企業の社員や公務員の方には、より詳しい説明をしてしまう傾向がある」。これは医師個人の問題というより、医療システム全体に潜む構造的な問題かもしれない。

また、高齢者に対する「エイジズム(年齢差別)」も深刻だ。同じ症状でも、若い患者には積極的な治療を提案するのに対し、高齢者には「年だから仕方ない」で済ませてしまうケースが少なくない。特に認知症の疑いがある高齢者の場合、家族の付き添いがないと、まともに話を聞いてもらえないこともある。