ドイツで原発を全て止めてしまったのは当時のメルケル首相の鶴の一声でありましたが、引き金は「フクシマ」でありました。ところが、その後、ドイツはエネルギー問題で極めて厳しい情勢に立たされます。もともとロシアからガスパイプライン、ノルドストリームがドイツに接続され、ガスの安定供給が可能になるという前提もメルケル氏が原発停止判断をする際に頭にあったと思います。
しかし、歴史はシナリオ通りに行きませんでした。まさかのロシアによるウクライナ侵攻、そして完成していたノルドストリームは爆破されてしまいます。欧州にはエネルギー供給危機が起きます。欧州ではフランスが原発大国であることから欧州各国に電力供給をする極めて重要な担い手となり、ドイツは受け手としてそれまでの欧州のリード役の歯車が狂ったのはご承知の通りです。
ここにきてドイツの首相が変わり、ドイツ国内の原発再稼働の議論が再燃しています。世の中、絶対ということはなく、5年後、10年後のことなど全く予想がつかないわけですから対応としてはfail- safe(いざという時の備え)は不可欠です。
日本のエネルギー政策は基本的には2030年以降に原発比率20%を目指しています。この政策は現実的ではないという意見もあるのですが、現実的かどうかよりも政策提言として理想的なバランスを提示していると捉えています。エネルギー政策は社会の理解、また期待される新技術が計算通りにはなりません。例えば今のように酷暑が続き、エアコンに頼るも電気代がうなぎのぼり、となればもう少し安い電源が欲しいよね、という社会の要請は当然あります。政府は補助金というとりあえずの策でこの夏も乗り切ろうとしていますが、地球温暖化は確実に進んでいるため、政府が毎年、夏の期間に補助金を出せるのか、と考えると長期的ビジョンの検討は欠如しています。
福島の原発事故から世界はより安全な原発開発を目指してきていますが、現状、最も現実的なのは小型モジュール型の原発であります。日本ではほとんど議論が進展していませんが、日立がGEと組んでカナダで小型モジュール型原発を2028年終わりの完成に向け、施工を進めています。この原発は工期も短く、総プロジェクト費用も2兆円規模とカナダでやることを考えると安く、早くできるのが特徴です。もちろん従来型の原発も安全対策がより進む一方、そのコストが膨大となるため、個人的には運営者にとって適正で健全な経済利潤が生まれるのか、やや疑問視しています。