オオヤマネコ(Lynx lynx)は、体長70〜130cm、体重18〜36kgほどで、ダルメシアン犬くらいの大きさです。

耳の先の黒い房毛と、美しい斑点模様が特徴的です。

この動物の再導入が注目される理由は、単に獲物を減らすだけではありません。

オオヤマネコは、シカやウサギを狩ることで草食動物の数を抑えますが、それ以上に大きいのは、研究者いわく「恐怖の風景(ランドスケープ・オブ・フィア)」を作り出すことです。

これは、獲物が常に“鬼ごっこ”の逃げ役のように動き続ける状況を指します。

捕食者の存在そのものが、草食動物を同じ場所に留まらせず、植物が食べ尽くされるのを防ぐのです。

さらに、オオヤマネコは獲物を食べ尽くさずに残す習性があるため、その残骸はキツネやワシ、昆虫など多くの動物の食料になります。

この“残り物”が生態系の循環を活発にし、森の多様性を支えます。

また、オオヤマネコは人間を避ける性質が強く、人に危害を加える事例はほとんどありません。

オオカミやクマに比べて生息に必要な面積も小さいため、再導入のハードルは比較的低いと考えられています。

再導入の導入となるのは?

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Credit: canva

今回の再導入は、イングランド北部ノーサンバーランド州のキールダーの森が中心です。

ここは東京23区の約4倍の広さを持つイングランド最大の森林で、シカの個体数も安定しており、オオヤマネコが暮らすのに適した条件が揃っています。

しかし、課題がないわけではありません。

もっとも大きいのは農家からの懸念です。

「羊が襲われるのではないか」という声は根強く、たとえ発生確率が低くても、予防策や補償制度を事前に整える必要があります。

また、イギリスでは大型肉食獣が何百年も存在しなかったため、人々の心理的な抵抗感も大きいのです。

ヨーロッパ大陸のようにオオカミやクマと共存してきた文化がないため、「森に捕食者がいる暮らし」を想像しにくいのです。