たとえば、銅(Cu)のインクで「Love」という文字を書き、そのうえを鉄(Fe)のインクで塗りつぶすとします。
これを鉄に特有の波長でスキャンすると、塗りつぶしがそのまま認識されますが、銅でスキャンすると「Love」が浮かび上がるのです。
もちろん、これは極端に単純化された例であり、手紙や塗りつぶしに使われたインクは、さまざまな元素が組み合わさってできています。
今回は、インク中の銅と鉄、亜鉛(Zn)と鉄の比率の違いを調べました。

その結果、フランス語で「愛(amour)」「親愛なる友(ma tendre amie)」という短いものや、「3人の幸せのために(pour le bonheur de tous trois)」「あなたなしでは(non pas sans vous)」といったフレーズが解読されました。
ここから2人の親密さが伺われますが、研究主任のアン・ミシュラン氏は「恋仲にあったことは断定できない」と指摘します。
「手紙の内容は関係性の一面に過ぎず、2人が文章で表した感情は、周囲の危機的状況によって強められたものかもしれない」と続けました。
では、マリー・アントワネットの手紙を検閲して塗りつぶしたのは誰だったのでしょうか。
研究チームは次に、黒塗りした人物の特定を試みました。
黒塗りしたのは「フェルセン伯本人」だった?

この件についての有力な仮説は、検閲者がフェルセン伯の近親者の誰かであり、一族の名声を傷つけないために、誤解を招きそうなフレーズを隠した、というものです。
しかし、チームが手紙を分析した結果、まったく別のストーリーが垣間見えてきました。