
人類は、かつてないほど「事実上の不老不死」に近づいているのかもしれない。一部の未来学者や技術の先見者たちは、早ければ2050年までに、人間が1000年という驚異的な寿命を手にいれる可能性があると予測している。これは、単なる健康寿命の延伸ではない。AIやロボット工学、そしてデジタル意識の移植といった最先端テクノロジーを組み合わせることで、生物学的な限界そのものを超越しようという、壮大な挑戦なのだ。
AIが人間を超える日「シンギュラリティ」が拓く不老不死への道
この大胆な未来予測を牽引するのは、AI研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏のような思想家たちだ。彼らは、このブレークスルーが「起こるかどうか」ではなく、「いつ起こるか」の問題だと考えている。
カーツワイル氏は、2029年までにAIが人間の知性を超える転換点「シンギュラリティ」が到来すると予測。さらに2045年には、脳とコンピューターを接続するインターフェースや、意識をクラウドにアップロードする技術、そして体内にナノボットを注入することによって、人間と機械が真に融合する時代が訪れるという。
そうなれば、少なくとも私たちの「精神」は死から解放される。それだけでなく、人類全体の知性は、現在の数百万倍にも増幅されるかもしれないのだ。
テクノロジーは万能か?「技術楽観主義」が隠す格差の影
こうした未来像の根底には、「テクノ・オプティミズム(技術楽観主義)」という考え方がある。これは、技術こそが人類の進歩の唯一の源泉であるとする思想だ。1990年代にインターネットブラウザ「Netscape」を共同開発したマーク・アンドリーセン氏も、「我々の文明はテクノロジーの上に築かれてきた。テクノロジーこそ人間の野心と達成の栄光だ」と、その信念を語る。
しかし、テクノロジーがすべての問題を解決するという考え方には、危うさも潜んでいる。デジタル技術が社会に与える影響を研究する専門家たちは、貧困のような複雑な問題は、技術だけで解決できるものではないと警告する。
むしろ、「技術が万能である」という思想は、すでに巨大な力と富を持つ人々の利益を優先し、深刻な技術格差を生み出す可能性があるのだ。イギリスの未来学者イアン・ピアソン氏も、不老不死を実現する技術の恩恵は、当初は最も裕福な人々に限定されるだろうと認める。遺伝子工学やデジタル意識の移植といった高度な技術は、徐々に中間層にも普及するかもしれないが、そこには社会的な課題が山積している。
