オープンにできるところはオープンに
そうしたロボット研究とAI研究の垣根も、少しずつ解消される兆しが見え始めているという。
「特に20~30代の研究者は、ロボットとAIの融合の重要性を理解しています。たとえば画像専門の研究者が画像の学会に行っても、自然言語の研究者が自然言語の学会に行っても、音声認識の研究者が音声認識の学会に行っても、ワークショップのトピックスに「フィジカルAI」があるという現象が現在、起きています。彼らはその方向性は十分に認識しつつ論文を読んでいるので、本来の研究分野は違うけれども、論文を通じてお互いに名前は知っているという状況も生まれています。
国立情報学研究所は言語モデルの研究、産業技術総合研究所は画像、音響の研究などの強みがあります。私は両方に所属していることもあり、これから両方の若手研究者をつなげることに興味があります。AIRoAでは、バックグラウンドが違う研究者同士でチームを組み、フィジカルAIの分野でコンペを行っていますが、そういう場所をもっとつくっていく必要があります」
AIロボット開発の進展に関して、人材以外の面でも課題があるという。
「日本企業、特に機械系のメーカーは基本的に自社のテクノロジーを自社のなかで抱えて、オープンにしないという文化が根強いです。機械系は特許になりやすいためですが、一方でAIは全部オープンにするという文化によって短期間で発展してきたという経緯を持ちます。ソフトを全部GitHubでインターネット上で公開するという文化は、日本のトラディショナルな企業からすると適応が難しいのかもしれません。
文化をいきなりは変えられないと思いますが、オープンにできるところはオープンにして、企業やアカデミアがシェアできるところは共同開発して、自社の強みは自社に残すという文化をつくれるのか、これが大きなポイントになってくると思います。AIRoAは会員企業に『出してもいいデータは出してください』と言っているわけですが、これはかなり挑戦的な取り組みです。本気でデータ活用と共有を通じた分野の発展を考え貢献いただける企業に参加いただいていると思っています」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=尾形哲也/AIロボット協会理事長)