●この記事のポイント ・経済産業省は、2040年に日本でAIやロボットの活用を担う人材が326万人も不足するとの推計 ・ロボット研究とAI研究の世界は、驚くほど文化が違う ・日本企業は自社のテクノロジーやパテントを自社のなかで抱えて、オープンにしないという文化が根強いことも課題

 開発基盤モデル「Cosmos」やロボット向け開発環境「Isaac」を運用する米エヌビディア、ロボット工学向けAIモデル「Gemini Robotics」を運用する米Google(グーグル)などが先行しているとされるフィジカルAI(物理AI)をめぐる開発競争が激化している。そうしたなか、経済産業省は5月、2040年に日本でAIやロボットの活用を担う人材が326万人も不足するとの推計を発表した。同年に必要となるAI・ロボット人材は498万人。AI・ロボット人材の不足問題は以前から指摘されていたが、このまま人材の育成が進まなければ、日本のAI・ロボット産業は世界に大きく遅れることになる。背景には何があるのか。そして、人材不足解消には、どのような取り組みが必要なのか。一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)理事長で早稲田大学 理工学術院 教授の尾形哲也氏に聞いた。

●目次

2つのまったく文化の違う領域をつなげる可能性

 AIRoAは昨年12月、AIとロボット技術の融合によるロボットデータエコシステム構築を目指す目的で設立された。AIロボットの開発促進のための取り組みとして、基盤モデル開発に必要なデータの収集・保管・管理・公開、基盤モデル・個別モデルの開発・運用・公開などを推進する。トヨタ自動車や三菱電機、NECなど28社の企業が参画する。

 AI・ロボット人材の不足の要因について、尾形氏はいう。

「ロボット研究とAI研究の世界は、実は驚くほど文化が違います。日本には日本ロボット学会と人工知能学会がありますが、両方に所属している研究者の数は少ないです。もちろんAIはロボットに必要な技術の一つですが、どちらかというと画像認識や言語認識などに限られています。例えば、AIの技術はデータ確率・統計がベースです。その結果として、「時間」に対する捉え方は、機械系、電気系の技術と比較して緩い印象があります。一方、ロボットの世界は物理方程式(=微分方程式)がベースになっています。実世界での制御のために時間にものすごく厳しく、ミリセカンド、マイクロセカンドの単位でロボットをコントロールする、という考え方です。

 もともと大学の学部構成としても、ロボットは機械工学科、AIは情報学科と分かれているのが基本で、両分野を勉強したことがある人は多くはないです。音声対話の会話システムを開発するのと、二足歩行のロボットを開発するのとでは、アプローチの仕方が異なるのですが、AIロボットの基盤モデルをつくることは、この2つのまったく文化の違う領域をつなげる必要があります」