
「星に手を伸ばす」という言葉が、今、新たな意味を持とうとしている。1000人の乗員を乗せ、250年かけて最も近い恒星系「アルファ・ケンタウリ」を目指す――そんな壮大な片道切符の旅を可能にする、未来の宇宙船の設計図が公開された。その名は「クリサリス(Chrysalis)」。蝶のさなぎを意味するこの船は、まさに人類が新たな世界へ羽ばたくための揺りかごだ。
全長58kmの巨大な“宇宙都市”
クリサリスは、全長58キロメートルにも及ぶ巨大な円筒形の宇宙船だ。船内には複数の生態系(バイオーム)が再現され、食料生産施設、図書館、公園、学校、病院、スポーツ施設まで、一つの都市機能が完全に備わっている。動力源は核融合炉。船体を回転させることで人工重力を生み出し、人々は地球と同じように生活できる。
この設計案は、世代を超えて宇宙を旅する「世代宇宙船」のアイデアを競う国際的なデザインコンペ「プロジェクト・ハイペリオン」で、見事最優秀賞に輝いた。コンペのルールは厳しく、使用できるのは既存の技術か、核融合のように近い将来実現可能と見なされる技術のみ。ワープ航法や人工冬眠といったSF的な技術は禁止された。NASAの科学者を含む専門家パネルが、デザインや持続可能性だけでなく、「乗員たちがうまくやっていけるか」という社会的な側面まで含めて審査した結果、クリサリスが選ばれたのだ。
船内には熱帯雨林も。食生活は完全ベジタリアン
クリサリスの内部は、機能ごとに複数の「シェル(殻)」に分かれている。
あるシェルは、農業と生態系を担当する。ここには熱帯雨林や針葉樹林などが再現され、到着した惑星で地球の環境を再現するための基盤となる。さらに、地球上のあらゆる生物の種子や胚、DNAを保存する「遺伝子バンク」も搭載される。
食料は植物からのみ生産されるため、乗員は全員がベジタリアンとなる。動物は多様性や観賞目的で少数飼育されるが、食用ではない。タンパク質は現代の培養肉のように合成して供給されるという。
また、別のシェルには公園や娯楽施設、図書館といった共用スペースが広がる。壁や窓は巨大なスクリーンとしても機能し、故郷である地球の風景を映し出すことも可能だ。住居は「モジュールハウス」と呼ばれる個人単位の家が用意され、人々は希望すればいつでも別の区画へ移り住むことができる。


