大型製造装置設置による硫化リチウムの供給体制確立

 硫化物系の固体電解質は水に触れると人体に有害な硫化水素ガスが発生するなど、扱いが難しい面がある。出光は、どのように硫化リチウムを量産するための技術を確立することができたのか。

「オイルショック以降、石油精製の副生物として得られる硫黄成分の有効活用法を探索するなかで、とある研究員が硫化リチウムをプラスチックの製造に応用する検討をはじめ、硫化リチウムの量産技術を確立しました(1994年に特許出願)。この技術をもとに、その後も高品質な硫化リチウムを量産するための知見と技術力を培ってきました」

 では、大型製造装置設置による硫化リチウムの供給体制確立により、トヨタ、および日本のEV普及にどのような影響を与える可能性があるのか。

「トヨタと共に2027~28年の市場導入を目指している全固体電池には、当社の固体電解質が使用される予定です。この固体電解質を製造する大型パイロット装置についても、25年度内には最終投資判断を行う計画です。固体電解質の原料である硫化リチウムの量産体制を確立することは、固体電解質の量産化に不可欠であり、全固体電池の開発推進に資するものです。

 全固体電池は、EVにおける出力の向上、航続距離の拡大、急速充電時間の短縮、そして、電池の長寿命化への寄与など、様々な価値をもたらすことが期待されています。当社は高性能な固体電解質をお届けし、全固体電池の実用化、社会実装を推進します。これによって、日本におけるEVの普及拡大に寄与するとともに、日本の蓄電池産業の競争力向上にも貢献できると考えております」

中国勢の追い上げ

 気になるのは中国勢の追い上げだ。出光はどのような点で優位性を打ち出していくのか。

「中国においても全固体電池、固体電解質の開発がスピードアップしていることは認識しています。当社は材料メーカーなので、材料面で品質とコストの両面を常に向上させながら、世の中に広く使っていただける固体電解質の供給を通して全固体電池の普及に貢献するスタンスです。当然、知財面の戦略もしっかりとたてています」

 最後に量産化に向けた見通しについて聞いた。

「トヨタ自動車と進める、2027~28年の全固体電池実用化へ向けては、掲げたスケジュール通りに着実に進捗しています。まずは、きっちりとこれを仕上げていくことに全力を注ぎます。その先の量産化については、実用化をもって動向や普及スピードを見極めていく必要があります。そのため、今の時点でははっきりとした時間軸はいえませんが、当社としては全固体電池を搭載したEVが世の中に出てからが、真のスタートだと考えています。全固体電池の価値が世の中で認められ、可能性がより広がるよう、固体電解質の開発や量産技術のブラッシュアップを継続してまいります」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)