このように、ECSの下限はAR6ではAR5よりも引き上げられたが、有力な反論が出ている状態だ。冒頭の要約にあるように、CWGはECSの下限はLewisが示した1.8を採用すべきとしている。
ところで、ECSというのはCO2が倍増してから何世紀もたって実現する平衡状態において定義されるので、架空の話であり、当面の気候変動とは関係の少ない概念だ。実際には、CO2が徐々に倍増した場合にどの程度の気温上昇が実現するかという過渡気候応答(TCR)の方が重要な概念となる。TCRは近代になってから観測された気温データの制約を強く受けるため、IPCCとLewisの結論の一致は良好である。
過渡気候応答(TCR)は、気候感度に関するより有用な観測的制約を提供します。TCRは、二酸化炭素を年間1%の割合で70年間増加させた場合(つまり、徐々に倍増させた場合)に生じる全球気温の上昇です。ECSと比較して、観測に基づいて計算されるTCRの値は、海洋熱吸収の不確実性や、長期的なフィードバックプロセス(例:氷床)の時間スケールの範囲から生じる均衡状態の曖昧な境界線といった問題を回避することができます。TCRは、ECSよりも、歴史的な温暖化によってより厳密に制約されています。AR6は、TCRの「非常に可能性が高い」範囲を1.2~2.4℃と評価しました。ECSとは対照的に、TCRの上限はより厳密に制約されています。比較すると、Lewis(2023)が算出したTCRの値は1.25~2.0℃であり、ECSよりもAR6との一致がはるかに良好です。
つまり、今から21世紀の終わりにかけて(あと75年間)、ある一定量のCO2の増加によってどの程度の気温上昇が起きるかということについては、CO2濃度が倍増した時点でIPCCは1.2~2.4℃、Lewisは1.25~2.0℃であり、おおむね意見の一致が見られるということだ。