安全保障の専門家を自負する者には、「左翼が日本をおかしくしてきた」という「物語」に、あらゆる物事を入れ込もうとする方々が多い。広島は左翼の巣窟だ、きっと自虐史観だろう、という偏見も根深い。しかし、何を見ても、このワンパターンを繰り返すのは、大衆に思考を停止させて、操作していくための姑息な術でしかない。

参政党の神谷代表が、南京大虐殺を否定した、というニュースが話題になった。事実の検証を度外視して、大衆の欲求に応じた物語を提供している、という批判が起こった。歴史認識問題は、現代のポピュリズムの問題の中枢である。

参議院選挙中には、「ロシアの選挙干渉を排除せよ」、とSNS上で主張する、ウクライナ応援団系の「専門家」の方々も話題となった。あらゆる事象の背後にロシアの影を見るというワンパターンを、軍事評論家や国際政治学者の方々が繰り返している姿も、最近では見慣れた光景になった。

歴史的事実の検証や、議論の内容の充実が軽視されてしまう社会、論者の政治的立ち位置に関するイデオロギー的判断ばかりが優先される社会は、疑いなくポピュリズムに毒された、停滞する社会だ。

右翼vs左翼、保守vsリベラル、親欧派vs親露派、といったステレオタイプの見方をこえて、議論を進めるための余地が、どんどん狭くなっている。

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