属人化と「仕組みの空白」が生む負の連鎖

 地方の現場では、マニュアルの整備が進まず、属人的な業務のやり方が続いている。新人への教育も、ベテランの経験や勘に頼ったOJTが中心だ。技術や手順を言語化できないまま、「見て覚えろ」と伝えるしかない状況が続く。その結果、外国人や未経験者には十分に伝わらず、教える側も疲弊してしまう。

 店舗や工場では、教育に人手が割かれ、通常業務との両立が難しくなる。店長が育成にかかりきりになることで、他の従業員がフォローを受けられず、不満が高まるケースも多い。

 属人化された環境では、新人の教育に時間がかかり、結果として離職が相次ぎ、教える側まで離脱してしまうケースもある。こうした“負のループ”が、地方の現場に深刻な構造的課題として広がっている。

「制服の着方や手の洗い方から教えなければならない。でも、教える人の手が足りない。やり方がわからないまま教えられ、教える側も疲れて辞めていく。こうした現場には、“仕組みの空白”が広がっています」と、鈴木氏は語る。

 製造現場だけではない。たとえば鈴木氏は、地方の飲食店で貼られた「担々麺やめます」の張り紙に、危機感を抱いたという。

「地方に行くと、『今日は人が足りないので、担々麺やめます』といった張り紙を見かけることがあります。人手不足のため、注文数を制限せざるを得ないのだと思います。さらに、インバウンド需要の高い地域では、より条件のよい仕事に人が流れてしまい、店舗が立ち行かなくなりつつあります」

 外国人労働者や短期のスポット労働者を頼るとしても、教える人の手が空かなければ何もできない。「人手不足」と一言で語られがちだが、その本質は「雇っても業務を引き継げる人がいない」ことにある。

 経営者が採用に動いても、外国人材やパートタイム人材の受け入れには教育コストがかかる。現場は疲弊し、教える側も含めて人が辞めていく。この悪循環が繰り返されている。特に属人化が進んだ職場では、新人の教育に手がかかり、定着せずに辞めていく。教育に割ける余力も限られ、教える側も疲れ果てていく。

人を育てられない現場を変える…人手不足時代の技術継承を救うマニュアル革命の画像1
(画像=スタディスト代表取締役・鈴木悟史氏)