だからこそ、超高精度な光学式原子時計と、キロメートル級に離れた3つの拠点が必要になります。
研究チームが考えた実験では、こうした条件をすべて満たす工夫がされています。
彼らは、「この実験セットは今ある最先端の装置で実現できる範囲内にある」と述べています。
実際にアメリカでは、シカゴ大学や国立研究所などが連携する「Q-NEXT」という量子ネットワーク計画が進められています。
その中には、地下にある研究施設とシカゴ市内の高層ビルをつなげて、約1キロの高さの差を使った実験を行う案も含まれています。
こうして、かつては夢のようだった量子と重力の実験が、現実のものになろうとしているのです。
宇宙理解の大転換は起こるのか?

今回提案された実験がうまくいけば、量子の世界と重力の世界が実際にどのように関係しているのかを、初めて直接調べられるようになります。
特に、量子の確率を決める「ボルン則」が、曲がった時空の中でどう変化するのかを確かめるのはとても大切な挑戦です。
これまでボルン則は、重力の影響がない場所でしか詳しく調べられてきませんでした。
重力のあるところでこのルールがどうなるのかは、まだ誰も試していないのです。
もし重力の影響でボルン則が少しでも変わることがわかれば、今の物理学にはない全く新しい法則が見つかるかもしれません。
逆に、もし何の変化も起こらなければ、量子論が極限環境でも頑健であることを実証する重要な知見となるでしょう。
どちらの場合でも、この結果は量子力学と重力理論を統一する「量子重力理論」に向けて、とても重要な手がかりになります。
また、この研究は、量子インターネットのような未来の技術にも大きな影響を与える可能性があります。
研究者たちは「量子ネットワークは通信に役立つだけでなく、これまでの技術ではできなかった科学実験を可能にする」と説明しています。