●この記事のポイント ・東京23区のオフィス空室率、前月比0.05ポイント低下の2.15%。千代田区は0.97% ・オフィス需要は一時的な調整局面を経て、着実に増加基調へと転じた ・企業による立地・設備面で優れた物件への移転・増床ニーズが上昇

 渋谷駅周辺や東京駅周辺などで大規模開発が進み高層オフィスビルの建設・開業が相次ぎ、オフィスの供給過多を懸念する見方もあった東京。そうした予測を裏切るかのように、オフィス空室率が極めて低い水準で推移している。ザイマックス総研が発表した6月の「オフィス空室マンスリーレポート」によれば、東京23区のオフィス空室率(対象:延床面積300坪以上のオフィスビル)は、前月比0.05ポイント低下の2.15%であり、賃貸面積のうちの募集面積の割合を示す募集面積率は3.28%(同0.03ポイント低下)だった。なかでも都心5区の空き室率は1.79%(同0.06ポイント低下)と低さが際立っており、千代田区(0.97%)のように1%を切る区も出ている。コロナ禍でリモートワークが拡大・定着し、人々の働き方が変容して“オフィス離れ”が加速するとの見方もあったが、なぜ逆の現象が起きているのか。また、今後も空室率低下が進んで企業が“オフィスを借りにくい”状況になるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

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対面での打ち合わせやチームでの協働作業が再び重視

 同研究所の調査によれば、大規模なビルのほうが空室率が低い。大規模ビル(延床面積5,000坪以上)は2.01%、中小規模ビル(延床面積300坪以上5,000坪未満)は2.31%となっている。東京23区では大規模開発が進行中だ。渋谷駅を中心とした半径2.5km圏内では、東急不動産などが「広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)」と定めた大規模再開発が進行。「渋谷ストリーム」「渋谷スクランブルスクエア」「渋谷ソラスタ」「渋谷フクラス」「Shibuya Sakura Stage(サクラステージ)」など高層オフィスが次々と開業。東京駅周辺では八重洲、日本橋地区の開発が進行中であり、23年に「東京ミッドタウン八重洲」が開業し、28年には高層ビルとしては日本一の高さとなる「トーチタワー」が開業予定。日本橋1丁目中地区でも高層ビルが開業予定だ。

 これ以外にも、数年前にひと段落ついた丸の内地区の再開発でも多くの高層ビルが開業し、2年前には港区に「麻布台ヒルズ」が開業。都内ではオフィス供給過多による空室率の上昇を予想する見方も強かったが、なぜ逆に低下しているのか。ザイマックス総研は次のように説明する。

「現在の空室率の低下は、複数の要因が重なっていると考えられます。まず、コロナ禍を経て、企業の人員構成や働き方の見直しが進み、オフィス需要は一時的な調整局面を経て、着実に増加基調へと転じています。出社回帰の流れが強まっていることに加え、対面での打ち合わせやチームでの協働作業が再び重視されるようになったことで、物理的なワークスペースの重要性が再評価されているのが背景にあります。出社回帰の動きは、必ずしも100%出社ではなくても着実に強まる傾向にあります。

 こうしたなか、社員の生産性を高めるための『より良いオフィス環境』を求める動きが活発になっており、企業による立地・設備面で優れた物件への移転・増床ニーズが高まっています。採用活動の観点でも、快適かつ魅力的なオフィス空間を持つことが企業の競争力につながると考える企業が増えているという面もあります。製造業でさえ、地方立地の工場に併設された研究所では研究職の採用が厳しいという声があります。

 また、出社回帰に伴い、入居企業内での会議室不足が顕在化しており、外部の貸会議室を一時的に利用するケースも増加しています。こうした需要も、オフィスの有効活用やスペース拡張の下支えになっています」