特に、群れの中に子どもがいる場合、大人たちは「狩りの技術」を実践を通して教える必要があるのです。
ナレーションを担当した英国の著名生物学者デイビッド・アッテンボロー氏は、映像の中で次のように語っています。
「これらのシャチたちは、地球上で最大の生物──シロナガスクジラを狩るために、完璧な連携と戦術を習得しなければならないのです」
食料用だけではなく「娯楽」目的も?
では、なぜシャチたちはあえてシロナガスクジラのような危険な相手に挑むのでしょうか?
それは必ずしも食料のためとは限らないようです。
海洋生物学者ナンシー・ブラック氏によれば、シャチたちはクジラを「遊びの対象」として襲っている可能性が高いとのことです。
「彼ら、ネコがネズミをもてあそぶように、クジラと遊ぶのです」とブラック氏は語ります。
もちろん、巨大なシロナガスクジラにまともに挑めば命の危険もあります。
そのため、シャチたちが狙うのは病気の個体や、子どもを連れた母クジラであることが多いとされています。
特に子クジラはすぐに疲れ、群れから離れてしまうため、シャチたちにとっては格好の獲物となるのです。
つまり、シャチたちは「狩りの効率性」ではなく、「チャンスがあれば圧倒的な獲物にも挑む」という戦略的な冒険心と、社会的な遊び心を持ち合わせているということになります。
そのための訓練が、今回撮影された「溺れるフリの練習」なのかもしれません。

この映像が撮影されたブリーマー湾には、南半球で最大規模とされる約200頭のシャチが生息しており、知性と社会性に富んだ彼らの複雑な行動は、研究者にとっても多くの謎を残しています。
シャチたちは、私たちが思うよりはるかに戦略的で、社会的な動物です。
今回の「溺れるフリ」の訓練は、単なる本能ではなく、親から子へと受け継がれる“生きる技術”なのかもしれません。
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