これらのタトゥーはすべて「手彫り(hand-poking)」で施されており、線の太さから複数の道具が使われていたことがわかりました。

太い線は複数の針を束ねた道具で描かれ、細い線や仕上げには単一針の道具が使われていたのです。
また線が重なっている箇所からは、彫り師が一度作業を止め、体勢やインクを調整して再開していたことも推測されました。
これはまさに、2300年前の「作業のリズム」が肌に残されていた証といえるでしょう。
彫り師の「技術差」まで明らかに⁈
チームはさらに、右前腕と左前腕のタトゥーに明確な「技術差」があることを発見しました。
右前腕の図柄は、動物たちの体勢や視線、体の流れを巧みに活かして構図が組まれており、腕の曲線に沿うように配置されています。
ヒョウとトラの顔は正面から見た視点で描かれており、これは当時のパジリク文化やスキタイ芸術では珍しい表現です。
構図の中心には猫科の捕食者が置かれ、角を持つ動物たちとの緊張感ある対比が巧みに描かれていました。
一方、左前腕の図柄はやや単純で、視点の工夫や身体との一体感に乏しく、図形の配置もやや平面的です。
たとえばシカの脚は透視図法を無視して正面から2本とも描かれており、解剖学的な正確さも右腕に比べて劣っていました。
この違いは、同じ女性の体に異なる技術レベルの彫り師が関与していた可能性を示しています。

または、1人の彫り師が時間をかけて技術を磨いた結果として、右腕のタトゥーがより洗練されたものになったとも考えられます。
さらに驚くべきことに、この女性ミイラの前腕には死後、埋葬のための皮膚の切開がなされており、タトゥーの一部が縫合線で貫かれていました。