しかしこの測定には異論もあります。
測定に使われた部分が実際には修復された後の布だった可能性や、布に微生物の汚染があったことが議論されています。
そのため、「放射性炭素測定だけでは判断できない」とする研究者も少なくありません。
また、像の描写についても研究が進められました。
布に付着した血痕とされる赤い染みは、仰向けで寝かされた人間の血流パターンと一致しないとされ、むしろ後から付け加えられた装飾のような不自然さがあるとの指摘もあります。
こうした経緯から、聖骸布は中世の宗教芸術作品であり、信仰の対象として制作された「キリスト教の象徴」ではないかという見方が強まりつつありました。
布に写っているのは「浅浮き彫りの像」だった?
こうした議論に対して、2025年7月に発表された新たな研究が注目を集めています。
この研究を行ったのは、ブラジルの3Dデザイナーで歴史的顔面復元を専門とするシセロ・モライス(Cicero Moraes)氏です。
彼はオープンソースの3Dモデリングソフトを用い、人体モデルと浅浮き彫り像の2種類を用意し、それぞれに布を仮想的にかぶせて、どのような像が転写されるかを比較検証しました。
その結果、三次元の人体に布をかけた場合、布は立体構造に沿って変形し、転写される画像は幅広く歪んだものになりました。
これは「アガメムノンのマスク効果」と呼ばれる現象で、3Dの物体を平面に押しつけたときに生じる特徴的な歪みです。
一方で、浅浮き彫り(低浮彫)の像に布をかけた場合、布は接触部分にだけ像を転写し、布に現れる画像は歪みが少なく、まるでコピー機で写したような自然な印象となりました。
この浅浮き彫りモデルによって得られた印影は、1931年に撮影された聖骸布の写真と非常によく一致していたのです。
