●この記事のポイント ・味の素の業績が伸長、25年3月期は売上高・事業利益ともに過去最高を更新 ・食品事業に加えて大きな柱となっているのが、半導体関連事業と医薬品の開発製造受託事業 ・事業展開は基本的にアミノ酸がすべて軸になっており、100年以上にわたるアミノ酸の研究の成果

 1909(明治42)年の創業から110年以上の歴史を持つ老舗食品メーカー・味の素の業績が伸びている。2025年3月期の連結決算は売上高が前期比6%増の1兆5305億円、事業利益は同8%増の1593億円でともに過去最高を更新。海外売上比率60%を超えるグローバル企業だが、食品事業に加えて大きな柱となっているのが、半導体関連事業と医薬品の開発製造受託(CDMO)事業だ。業績伸長と海外展開の加速、そして多角化の成功の理由について、味の素への取材を交えて追ってみたい。

●目次

ABFという半導体関連製品をグローバルで展開

 2026年3月期に過去最高益を更新する見通しとなっている理由について、味の素は次のように説明する。

「2020年頃から売上高・事業利益はともに成長基調となっており、特にオーガニックの既存事業の成長を軸として毎期、売上高・事業利益が過去最高を更新しております。食品事業については特に海外の売上・利益の成長が続いています。もう一つの要因としては、23年度は一時的に市場全体の調整の影響を受けましたが、電子材料のABF(味の素ビルドアップフィルム(R):層間絶縁材料)が持続的に高い成長を続けているのに加えて、25年度はバイオファーマサービス(CDMO)や、医薬品原料として製薬企業様などにお使いいただくアミノ酸事業と合わせ、バイオファーマサービス&イングリディエンツの利益が拡大することもあり、引き続き高い成長を見込んでおります。

 食品については概ね全地域で業績が伸びており、特にタイやインドネシア、ベトナム、フィリピンなどのASEAN各国、ブラジル、ペルーなどラテンアメリカ各国での販売の好調が続いています」

 味の素の成長を支える原動力の一つとなった半導体関連事業に同社が参入したのは、1990年代だ。きっかけは何だったのか。

「当社はABFという半導体関連製品をグローバルで展開しております。半導体を実装するときの半導体パッケージ基板に使われるものです。基板の中には複雑な層があり、その層と層の間を絶縁するフィルムになります。半導体のチップをマザーボードに接続する際にパッケージ基板の中にたくさんの層が重ねられているのですが、その層と層の間に使われるフィルムです。層の上に細かい回路が引かれており、層を何枚も重ねることによって、回路から複雑なシグナルを送ることができるようになります。半導体と基板が一体になってチップセットが構成されており、当社は1990年代後半にチップセットに使われるフィルムを開発して、現在は世界で生産されるチップセットの95%以上で使用されています。PCやサーバー、ネットワーク機器などにも使用されております」

 このABFは、『味の素(R)』を発酵でつくる際の副産物を応用して開発したもので、アミノ酸の研究から生まれた製品です。我々の事業展開は基本的にはアミノ酸がすべて軸になっており、100年以上にわたるアミノ酸の研究の成果の一つといえます」

 こうした非食品事業は、会社として事業の多角化を目指した結果生まれたのか。

「多角化を目指したというよりは、経営メンバーや従業員の『アミノ酸の力は、もっといっぱいあって、いろいろなことができる。もっと社会の役に立ちたい』という思いから生まれました」