書記たちのネットワーク:古代の分散型システム

 ここからが、彼らのシステムが本当に賢いところだ。メソポタミアの記録管理は中央集権的ではなく、各地で働く専門の書記たちのネットワークによって分散管理されていた。

 このネットワークは、現代でいう「合意形成」の原則で動いていた。商取引には複数の証人が必要で、その内容は「粘土に記録され、証人が立ち会う」ことが定められていた。記録のコピーは異なる書記によって複数の場所に保管されていたため、誰か一人が重要な記録をこっそり書き換えることは不可能だったのである。

円筒印章と指紋:驚くほどモダンな認証技術

 古代の会計技術は、認証の分野でその洗練の極みに達する。紀元前4400年頃にまで遡る「円筒印章」は、世界初の個人認証デバイスとして機能した。粘土板の上で転がすと、それぞれの印章に固有の模様が刻まれ、偽造不可能な署名となったのだ。

 驚くべきことに、彼らは現代でいう「多要素認証」すらも導入していた。

・持っているもの:円筒印章そのもの ・知っていること:印章のデザインの意味を理解できる知識 ・物理的な認証:複数の証人の立ち会いや、粘土板に押された指紋

 この多層的なアプローチは、強力なセキュリティを生み出した。驚くほど現代的な本人確認のアプローチである。

5000年前の粘土板に“ブロックチェーンの原型”があった?古代メソポタミアの驚くべき記録術の画像4
(画像=円筒印章とその印影 Unknown –Marie-Lan Nguyen(2006), Public Domain,Source)

楔形文字から暗号通貨へ:変わらぬ人類の挑戦

 この古代の知恵は、ブロックチェーン技術が人類の歴史において、決して急進的な変化ではないことを教えてくれる。それは、信頼できる記録を作ろうとする我々の終わりなき探求における最新のエピソードに過ぎないのだ。

 私たちが分散型台帳で解決しようとしている問題(信頼できる中央機関なしで、いかにして永続的で検証可能な記録を生み出すか)は、古代社会が経験した問題と全く同じなのである。メソポタミア人は焼き固めた粘土と書記のネットワークで、私たちは暗号技術とP2Pネットワークでその課題に適応している。技術は変われど、挑戦は時代を超えて普遍なのだ。

 ブロックチェーンの根底にある原則は、最初のコンピューターコードが一行も書かれるより何千年も前に、すでに試され、検証されていたのである。

参考:Ancient Origins、ほか

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