●この記事のポイント ・相続を迎える人の相続税負担の増大が懸念されるなか、相続時精算課税制度が注目されつつある ・贈与税と相続税を一体として捉える課税制度 ・累計2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となる「特別控除枠」 地価の上昇に伴い、相続を迎える人の相続税負担の増大が深刻な問題になると懸念されるなか、相続時精算課税制度がにわかに注目されつつある。累計2,500万円までの贈与について贈与税が非課税になるといったものだが、具体的にどのような制度なのか。また、どのように利用すればよいのか、デメリットはないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
年間110万円までの基礎控除が新たに設置
国税庁は7月1日、2025年分(1月1日時点)の路線価を発表した。路線価は相続税・贈与税の算定基準となる。全国約32万地点の標準宅地の平均は、現在の算出方法となった2010年以降としては最大の前年比2.7%プラスとなり、東京都内は平均で前年比8.1%プラス、関西2府4県は同2.7%プラスという高い伸びとなった。こうした路線価の上昇は、相続に大きな影響をもたらす。「近年、地価高騰が続き、それに伴う相続税負担の増加が、特に高齢者の方々にとって大きな関心事となっています。そうした中で、相続時精算課税制度への注目が高まっているのは自然な流れと言えるでしょう」というファイナンシャル・プランナーの黒田尚子氏に、まず制度の基本的な内容について解説してもらう。
「相続時精算課税制度は、贈与税と相続税を一体として捉える課税制度です。原則として、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対して財産を贈与する際に選択できます。この制度の最大の特徴は、累計2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となる『特別控除枠』がある点です。この枠を超えた贈与には一律20%の贈与税がかかりますが、注目すべきは2024年(令和6年)1月1日以降の改正点です。改正により、この制度を選択した場合でも、年間110万円までの基礎控除が新たに設けられました。この年間110万円までの贈与は、贈与税もかからず、かつ相続時にも相続財産に加算されないため、非常に使い勝手が良くなりました。また、2,500万円の特別控除と併用できますので、計画的に贈与を進めるうえで、将来の相続税負担を軽減する有効な手段となります。
どのように利用すればよいのか。
「この制度を利用するには、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、税務署に『贈与税の申告書』と『相続時精算課税選択届出書』を提出する必要があります。年間110万円以下の贈与で贈与税がかからない場合でも、初回は選択届出書を提出しなければなりません。具体的な利用方法としては、例えば、将来値上がりが予想される不動産や株式などを、評価額が低いうちに贈与するのも一つです。相続時精算課税制度で贈与された財産の評価額は、贈与時の価額で固定されるため、将来の値上がり分については相続税がかからないというメリットがあるからです。また、子が住宅を購入する際の資金援助や、孫の教育資金の援助など、まとまった資金を一括で贈与したい場合にも有効です」(黒田氏)