ここには「基調的」とも「長期にわたって」とも書いてない。そう解釈したのは、黒田総裁である。彼はすべての国民が将来にわたって2%の期待インフレ率をもつ状態を目標にし、2015年に一時(円安の影響で)2%を超えたときも量的緩和をやめなかった。

中立金利を基準にしたアコードに変更すべきだ

物価にスタンダードはないが、金利のスタンダードとして世界的に使われているのは中立金利である。これは実体経済に中立な名目金利で、

中立金利=自然利子率+予想インフレ率

である。日本の自然利子率は、日銀のワーキングペーパーによれば、マイナス1.0~プラス0.5%(中央値でマイナス0.25%)である。

日米欧の自然利子率(日銀)

予想インフレ率としては債券市場のブレークイーブンインフレ率(BEI)を使うことが多いが、これは現在1.6%だから、中立金利は0.6~2.1%(中央値で1.35%)である。植田総裁も「中立金利は1%台」という認識を示している。

理論的には、あと1%ぐらい利上げすることが実体経済に中立だが、政策金利を1.5%に上げると、アコードに定める2%よりかなり低いインフレ率になるだろう(理論的にはゼロ)。

そのときどっちを優先すべきか。アコードから12年もたち、経済は大きく変わっている。当時も根拠のなかった2%という数値目標をいつまでも護持する理由はない。アコードを変更するのが当然だ。

新しいアコードは数値目標ではなく「日本銀行は政策金利を中立金利に近づける」といった文言が望ましい。中立金利の定義は明確なので、これにはインフレ目標のような裁量の余地がなく、予見可能性も高い。