研究では、雇用状態や教育水準、健康指標が低い人ほど脳年齢のギャップが大きくなることも明らかになっており、社会格差が脳の健康にも影響を与える可能性が浮き彫りになりました。

コロナ感染者では認知機能も低下

一方、脳の老化が認知機能にまで影響を及ぼしていたのは、実際に新型コロナウイルスに感染した人々にのみ限られていました。

研究では、感染歴のある人たちにおいて、数字や文字の並び替えを行う「トレイルメイキングテスト(TMT)」の成績が悪化していることが確認されました。

処理速度や注意力、柔軟な思考力を測るこのテストで、感染者は非感染者や対照群と比べて明らかに時間がかかるようになっていたのです。

さらに解析を進めると、感染者の中では、脳年齢が急激に進んだ人ほど認知機能の低下も大きくなるという相関が見られました。

とくに白質(神経のネットワーク)における変化が著しく、ある一定の「老化しすぎ」の閾値を超えると、機能低下が一気に進むような傾向も見られています。

しかし感染していない人では、脳の老化は加速していても、認知機能に目立った低下は見られていませんでした。

つまり、ストレスや孤立が脳に「見えないダメージ」を与える一方で、感染によってそのダメージが「実害」へと転じる可能性があることが示唆されたのです。

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Credit: canva

この研究の最大の発見は、新型コロナウイルスのパンデミックが、感染者だけでなく、すべての人々の脳の老化を加速させていたという点です。

しかも、その老化は年齢や性別、社会的背景によって異なり、とくに弱い立場にある人ほど影響を強く受けていたのです。

こうした「見えない脳への負担」は、今後の認知症リスクや健康格差の拡大にもつながりかねません。

ただし、研究者たちは希望も語っています。

観察された脳の老化が可逆的(元に戻る可能性がある)であることも示唆されており、今後の生活環境や社会的支援によっては、脳の健康を回復できる可能性もあるからです。