このエネルギー準位の歪みによって、アルミニウム20の基底状態(一番安定なエネルギー状態)の構造が、20Nの基底状態とは異なる状態になったと考えられています。
具体的には、20Nの基底状態は2⁻という量子状態であるのに対して、アルミニウム20の基底状態は理論的計算により1⁻という異なる状態であることが示されています。
同じように陽子と中性子を配置しているつもりでも、陽子同士の電気的反発というわずかな違いによって、原子核のエネルギーと内部構造が大きく変化してしまったわけです。
これが「アイソスピン対称性の破れ」と呼ばれる現象の本質です。
今回観測されたこの現象は、単なる理論の小さなズレというだけでなく、核物理学の根本にある理論の限界や改善の余地を示唆しています。
原子核という極めて小さな世界でも、わずかな電気的反発が大きな変化を生むというのは、直感的にも非常に興味深いことです。
また、理論の限界を明確に示すという点で、今回のアルミニウム20の発見は、核物理学者にとって重要な「挑戦状」ともなりました。
さらに、今回の発見によって、原子核というミクロな世界の対称性や安定性をめぐる議論がさらに活発になることも期待されます。
こうした新しい知見は、将来的には宇宙における元素合成の仕組みの理解を深めたり、まだ発見されていない新たな元素の探索につながったりする可能性もあります。
アルミニウム20という「生まれながらにして壊れる運命を背負った」原子核の発見は、私たちが原子核というミクロな世界をより深く理解し、その教科書を書き換える新たな一歩となるかもしれません。
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元論文
Isospin Symmetry Breaking Disclosed in the Decay of Three-Proton Emitter 20Al
https://doi.org/10.1103/hkmy-yfdk
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。