つまり、核力の立場からすると、陽子と中性子はほぼ等価に扱われることになります。

こうした性質を反映して考えられたのが「アイソスピン対称性」という概念です。

この対称性によれば、陽子と中性子を入れ替えた「鏡」のような関係にある2つの原子核は、似たような構造とエネルギー状態を持つはずだという予測が成り立ちます。

例えば、今回のアルミニウム20(陽子13個、中性子7個)と、その「鏡像」に相当する核種として中性子過剰の20N(陽子7個、中性子13個)という原子核があります。

これらの原子核の構造やエネルギー準位は、陽子と中性子を入れ替えただけでほぼ同じになるだろうと考えられていました。

しかし、実際に今回の実験で測定されたアルミニウム20のエネルギー準位は、この理論的予想よりも低い値を示しました。

これは一体なぜなのでしょうか?

その秘密は、陽子と中性子が「ほぼ」等価とはいえ、実際には完全には同じではないという点にあります。

陽子は中性子と異なりプラスの電荷を持っています。

このため陽子同士は、お互いを電気的に強く反発し合います。

一方で、中性子は電荷を持たないので、陽子のような強い反発は起こりません。

つまり、原子核の中で陽子が増えるほど、陽子同士が反発する「クーロン力」の影響が大きくなり、核の構造がわずかに変化することになります。

このクーロン力の影響が特に強く現れるのが、「陽子が過剰に多い原子核」、つまり陽子ドリップラインを超えた原子核です。

アルミニウム20のような陽子過剰核では、陽子が原子核内に存在できるエネルギーの準位が通常よりもずれてしまいます。

この現象は「トーマス–エアマンシフト(Thomas-Ehrman shift)」と呼ばれ、非常に不安定な原子核で特によく見られる現象です。

陽子が多すぎる原子核では、クーロン力の反発が原因で、陽子が存在できるエネルギー準位が予想よりも低く歪んでしまうのです。