なぜ“アーミッシュ”の子供はアレルギーにならないのか? 科学者が突き止めた驚きの理由の画像1
(画像=Image byBrigitte WernerfromPixabay)

 現代社会において、アレルギーは避けて通れない問題だ。世界人口の実に40%(30億人以上)が、何らかのアレルギー性疾患に悩まされているという報告もある。

 特にアメリカの状況は深刻で、子供の半数以上がアレルギー持ちだという。しかし、そんな中にあって、アレルギーとはほとんど無縁の生活を送る人々がいる。それが「アーミッシュ」だ。アーミッシュの子供たちのアレルギー発症率は、わずか7%。一般の子供たちの喘息発症率が8~10%なのに対し、アーミッシュでは1~2%に過ぎない。

 日本でもアレルギー疾患は増加傾向にあり、2021年の調査によると、約2人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹患している。特に花粉症(39.0%)、アレルギー性鼻炎(27.5%)、食物アレルギー(15.1%)が多く、乳幼児では食物アレルギーの有病率が約10%に達する。日本の小児の喘息発症率も8~10%程度とアメリカの一般的な割合と同等だが、アーミッシュのような低い発症率を示すコミュニティは見られず、都市化や清潔すぎる環境が影響していると考えられている。

 このアーミッシュの驚異的な数字の裏に隠された秘密を解き明かすため、科学者たちは今、彼らの納屋や家に注目している。その発見は、アレルギーを根本から防ぐ未来の治療法に繋がるかもしれない。

謎を解く鍵は「家畜小屋のホコリ」

 アーミッシュとは、アメリカやカナダの一部で、電気や自動車、スマートフォンといった現代技術を避け、伝統的な農耕生活を送る人々のことだ。科学者たちは、彼らがアレルギーに強い理由を探るため、同じような伝統的な農耕生活を送る別のグループ「ハッターライト」と比較研究を行った。

 両者は遺伝的背景も生活様式も似ている。しかし、アレルギーや喘息の発症率が極端に低かったのは、アーミッシュの子供たちだけだった。このことから、答えは遺伝子ではない、何か別の要因が働いていると考えられた。

 研究者たちが次に注目したのは、子供たちの環境との関わり方だ。そして、そこに決定的な違いを見出した。

 シカゴ大学の専門家、キャロル・オバー氏はこう語る。

「ハッターライトの子供や妊婦は、家畜小屋には入りません。子供たちが家畜小屋に触れるのは、農作業を習い始める12歳頃からです。一方、アーミッシュの子供たちは、幼い頃から一日中、牛小屋を出たり入ったりしているのです」

 両者の家のホコリを分析したところ、アーミッシュの家のホコリには、ハッターライトの家の約7倍もの微生物が含まれていることが判明した。さらに、このホコリをマウスに吸わせる実験では、アーミッシュのホコリを吸ったマウスは、アレルギー物質にさらされても気道の炎症がはるかに少なかった。

 これは、幼少期に家畜小屋の多様な微生物に定期的に触れることで、アーミッシュの子供たちの免疫システムが、花粉や食物といった物質に過剰反応せず、穏やかに対応するように「訓練」されていることを強く示唆している。この現象は「ファーム・エフェクト(農場効果)」と呼ばれている。

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(画像=イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI))