●この記事のポイント ・カクヤス、2027年度中をめどに基幹システムをフルクラウド化するプロジェクトを推進中 ・ドメイン駆動設計(DDD)を採用し推進。業務領域を業務ドメインとして幾つかの領域に分け、段階的に開発・リリース ・他社のものも含めた幅広い商品を配送する事業へとグループ全体で転換

「なんでも酒やカクヤス」をはじめとする店舗・物流拠点など計約250拠点を展開するカクヤス。酒類・飲料をはじめとする食品から日用品まで幅広く扱っており、消費者にとっては便利な存在だが、年間配達件数が約1122万件(2025年3月期)に上るほど充実した配達網を構築していることでも知られている。その同社は2027年度中をめどに基幹システムをフルクラウド化するプロジェクトを推進中だが、それによって小売・卸売企業から物流企業への進化を目指しているという。その強い信念は親会社のカクヤスグループが7月に社名を「ひとまいる」に変更したことからも伝わってくるが、どのようにフルクラウド化を実現するのか。そして、どのように物流事業を主力事業にしていくのか。カクヤスへの取材をもとに追ってみたい。

●目次

ビジネスの需要変動にスピーディーに対応可能に

 基幹システムをフルクラウド化するに至った背景について、同社は次のように説明する。

「当社はこれまで、インバウンド増加やパンデミックといった外部環境の変化によるビジネスの拡大/縮小といった影響を直接的あるいは間接的に受けてきました。こういった外部環境の変化に柔軟に適応するには、本来ビジネスの拡大/縮小に応じてシステムをスケールアウト/スケールインすることが理想ですが、現状のオンプレミスでの基幹システムでは、各サーバ間での整合性担保や機器調達に要するコストやリードタイムの問題から、スピーディーな対応が非常に困難でありました。

 しかし、これらの問題は基幹システムをクラウド化することで時間、コスト、労力の削減が実現するばかりか、システムとしての柔軟性も大幅に向上すると考えています。したがって次期基幹システムをフルクラウド化で構成することは、ビジネスの需要変動にスピーディーに対応可能になり、延いてはビジネス上での競争優位につながると考えています」

 オンプレミスで稼働しているシステムをクラウドに移行させるのは容易ではない。同社はどのように移行を実現していくのか。

「次期基幹システムは、現行の基幹システムをクラウド上に単純移行するのではなく、クラウド上に新しい基幹システムを3年程度の期間で開発する予定です。この新しい基幹システムは、現行の基幹システムがカバーする業務領域を『業務ドメイン』として幾つかの領域に分け、段階的に開発・リリースを行っていきます。具体的には、ドメイン駆動設計(DDD: Domain-Driven Design)を採用し推進しています。

 また、次期基幹システムではヒト、モノ(システムや拠点など)を疎結合※に設計していますが、これにより業務ドメインごとの段階的なリリースを可能としているとともに、将来的な外部環境の変化へ柔軟に対応できるシステムを構築していきます。 ※疎結合:システムや組織の構成要素が、お互いに独立性が高く、依存性が弱い状態